作務衣の本質と通じる利休の“侘び”の世界!
千利休――茶の湯を通じて“侘び”の文化を確立した人物。この<利休の色>こそ、作務衣の持つ本質と相通じ、さらに鮮烈で奥深い香りを作務衣に加えるものに他なりません。
文献によると、その色は<利休茶>といい、暗い黄色――つまり茶色が基本となったもの。
その色調は見ようによっては茶色の範囲に属するとは言い切れないほど微妙で奥深いものとなっていました。
自然の巧まざる技を利用した絶妙な色合い!
試し染めを重ねること数知れず。遂に納得のいく染め上がりを得て復元されたのが、「利休茶作務衣」です。
草木染調の特殊な化学染料に着けて、しぼって、空気にさらす(空気酸化)――という工程を丹念に幾度となく繰り返す重ね染め。特に、微妙なツヤを出すための空気酸化は納得のいくまで数を重ねました。
単調な色しか出せない機械染と違い、自然(天候、気温、湿度など)の巧まざる技を利用した染色ですから、染め上がった色の味わいは絶品です。
しかし、これでも利休の“侘び”には及びません。
そこで、“交織”という技法でさらにその奥深さを求めます。染め上がった茶の糸をタテ糸に、そして、蓼藍の葉から染め上げた正藍染の糸をヨコ糸に使い紬風に織り上げます。
茶の糸に藍の糸がひそやかに交わり、その微妙で格調高い色合いが完成。やっと利休さんに顔向けのできる、まさに「利休茶」が復元したのです。
利休茶復元に燃え上がった職人魂(1)
素朴にして奥深く、端正にして格調高く…遂に復元された利休の色!
上下共に素材は木綿、色は藍染――というのが作務衣の基本です。
僧侶の修行着として、この素朴で質素、また端正な様式は長い歴史の中で受け継がれてきました。
この伝統的な様式の持つ機能性や雰囲気、精神性などが現代の人に評価され作務衣ブームが生まれたのです。
一方、伝承はそれとして、新しく質の高い作務衣の開発を望む声も、ブームが進むにつれ多く寄せられるようになったのです。
もちろん、私ども<伝統芸術を着る会>としても望むところ。すでに以前から特別プロジェクト・チームを編成し、その研究を続けてまいりました。
形と機能はそのままに藍に勝るとも劣らぬ色を!
新しい作務衣といっても、その本質が見えなくなるようなものでは意味がありません。形と機能――これは触りたくてもそれが出来ないほどの完成度の高さを作務衣は持っています。これを破るような愚行はおかしたくありません。
そこで着眼したのが“色”でした。それも藍染めの勝るとも劣らぬ色を求めた戦いが始まったのです。
素朴にして奥深く、また端正にして格調高い色――これを考え抜き、到達したのが、俗に言う“利休好み”でした。
近江縮甚兵衛(おうみちぢみじんべい)
四百年の伝統を誇る“手もみ”の技法!
「縮み」とは、織物の表面に「しぼ」と呼ばれる独特の細かい凹凸をつけていく伝統的な技法です。
この近江縮、四百年の伝統を持つ手もみ技法で「しぼ取り」加工されています。そのため、肌との接触面が少なくべとつき感がなく、通風性にも富んでいますので清涼感は抜群です。
生地素材は麻45%、綿55%。しかも染めは本藍染――とまさに三拍子揃った高級甚兵衛です。
この夏の甚兵衛、もう単なる暑さ凌ぎの装いとはいえないようです。
本藍染甚兵衛 縞柄、本藍染甚兵衛 無地(ほんあいぞめじんべい しまがら、むじ)
団扇片手に下駄鳴らし、粋でいなせな夏姿――よくぞ男に生まれけり。
袖を通し、前を合わせてひもで結ぶ。ゆったりとした着心地と、サラッとした肌ざわりが何とも言えず心地良い。どこかで風鈴がチリリン…涼風が通り抜け、身はもちろん、心の窓までがすっかり開け放たれていく。
ゆかたが女振りだとすると、この甚兵衛は、まさに男振り。うちわ片手に下駄を鳴らして歩く、粋でいなせな姿が目に浮かぶ。
素材、織り、染めのすべてが本物志向!
「縞柄本藍染甚兵衛」は粋でいなせ…を現代風にアレンジ。計算された縞柄の濃淡が、いかにも夏らしいと好評。本綿100%の布地から肌に伝わる清涼感と、糸染めからすべて手染めで仕上がった本藍染の色合いは絶品。洗うほどに藍の渋さが深まってくる。
縞柄がちょっと大胆すぎてという方には、無地もある。こちらは、藍無地にひと際目立つ白いかがり糸が印象的。しっとりと渋い色合いは、特に年配の方に評判が良い。
どんな背景にもマッチする甚兵衛!
いずれの甚兵衛も、ウェアとしての機能性は抜群。ゆったりと着られ、のびのびと自由に動くことができる。
また、どんな背景にもマッチする現代的感覚を持っているので、近所への用足しや旅行先でのくつろぎ着としてもサマになる。ましてや、このような高級甚兵衛とくれば、まわりのあなたを見る目はガラリと一変するに違いない。高級品を少し崩して着る。夏のお洒落はこうありたいもの。
盛夏涼装――今年の夏は下駄など鳴らして“日本人”してみるのも一興ではないだろうか。
正藍染竜巻絞り 綿絽甚兵衛(しょうあいぞめたつまきしぼりぞめ めんりょじんべえ)
盛夏の装いとして本格仕立ての甚兵衛が見直されています。
ちょっと陰が薄くなっていた“じんべえ”が、このところ徐々に見直されてきているようです。それも、スーパーなどで売られている普及品ではなく、本格仕立ての甚兵衛が人気とか。当会としてはこの傾向を“何を今さら…”という感じでとらえています。
「伝統芸術を着る会」では、発足以来、夏の作品としてさまざまな甚兵衛を開発し、ご提供して参りました。それも、盛夏の装いとして親しまれてきた伝統の一着ですから、作務衣と同様に本格仕立てを一貫して続けてきました。そのためでしょうか、当会ではこの季節が来ると甚兵衛のご用命が急増します。
高級品をさり気なく崩して着る――これが粋!
例えば綿絽甚兵衛。夏季に限定すれば作務衣に匹敵する人気を誇っています。綿素材のご本絽、染めは正絹竜巻絞り――と、まさに本格派。
年に一度の歳時的な要素を持つ装いだからこそ、ちゃんとしたものを着たい――という見識の高い会員の皆様がいかに多いかを、この甚兵衛人気が証明しています。
しかし、高級品だからと言って気を遣う必要はありません。素肌にざっくり少し着崩して、さり気なくお召し下さい。それが粋というものです。
花火とじんべえ
いなせが駆ける江戸。将軍も”じんべえ”だった?
「いよっ、粋だね、いなせだねえ!」。この「いなせ」は「鯔背」と書き、江戸時代に威勢のいい寿司職人たちに向かって与えられた呼びかけだったとか。
そんな話を聞くと、江戸の庶民たちの生き生きとした表情が脳裏を駆け抜けるような気がします。
その江戸の人々が、夏になると愛したのが”じんべえ姿”。この着姿が粋になるかならないかで、女性へのもてかたも違ったというのですから大変。
ちょっと斜に構え、団扇片手に花火を愛でる…そんな男振りが、夏の風物詩にもなりました。
ちなみに日本で初めて花火を見たのは、1613年、駿府城の徳川家康で、英国人が謙譲した中国製の花火だと云われています。
『徳川実記』によると、三大将軍家光は花火に興味を持ち、江戸城内をはじめ、大川や品川まで出掛けて花火を見物し、花火創りを大いに奨励したと伝えられています。
もしかしたら将軍も、じんべえ姿に団扇だったかも…そんな想像も夏ならではの、愉しいものです。
揚柳作務衣 ブラック(ようりゅうさむえ ぶらっく)
一着は欲しい“夏の黒”、陽光に潔く映える。
皆様のご愛顧と叱咤激励のおかげを持ちまして、当会創立15周年という特別な年。大輪の花火にも似た、特別な驚きと慶びを皆様にお贈りしなければ…とお披露目に至りましたのが、「揚柳作務衣 ブラック」です。
「特別な作務衣となれば、彩りはやはり究極の黒でいきたい」
「生地は“黒の彩りをぜひ!”とのご要望の多い楊柳で」
と、スタッフ会議がことのほか盛り上がった新作は、黒というよりも思わず「ブラック」と鋭く発したくなるような、陽光に潔く映えるダンディズムあふれる彩りとなりました。
季節柄、お盆のお出かけ用としてはもちろん、フォーマルな場への装いとして、重宝な一着となること請け合いです。
揚柳作務衣 爽風(ようりゅうさむえ そうふう)
より存在感のある彩りを…難問と格闘した一年間
「楊柳作務衣」は、“旅に着ていく一着として実に重宝”と大好評を博しました。しかしながら、さすがに目の肥えた会員の方々。さらに精進せよとばかりに、その後、実に様々なご意見を頂きました。
その中でも格別に多かったのが、彩りに関するもの。旅先や行楽先に着ていくということは、他の人々の視線をより意識することになる。されば、さらに主張を持ったもの、それも、厳かな存在感を放つ“主張なき主張を持った彩り”を実現してくれないだろうか…。
そのご意見を実現したのが、「揚柳作務衣 爽風」です。
“しもふり”の涼感が見事!
基本的な彩りは、陽光まばゆい季節を考慮して薄いグレーを用いました。
しかし、ただそれだけでは会員の方々を納得させるのは物足りない。ならば糸から工夫を凝らそうと、より上質の糸を選び抜き、それを濃淡のある二本の糸として染め上げ、生地全体が涼やかな“しもふり調”を醸し出すような独特の織りにて仕上げました。
その結果、写真のように、えもいわれぬ柔らかな味わい深い彩りを実現したのと同時に、前作以上の優しいさらさら感も獲得することができ、全体に充実感が増しました。
古織揚柳作務衣(こしょくようりゅうさむえ)
古織が瞳に涼を呼ぶ。
新しい楊柳のため、温故知新の習いがあるように、悩んだら古き佳き伝承を発掘せよ、とばかりに膨大かつ様々な文献をあさるうちに出会ったのが、“古織(こしき)”という、まさに字の如き、いにしえからの織り。
生地全体に、涼感を強めるしぼ付けのような文様がさりげなく表れるその織りを、いざ採用させていただきました。
その表情は、夏の蒼空のような彩りとあいまって、実に涼しげ。事実、織りの特性により、これまでの楊柳作務衣以上に通気性が高まり、着心地も抜群の涼感あふれるものと相成りました。
大滝揚柳作務衣(おおたきようりゅうさむえ)
息をのむ“色彩の美学”。沈黙こそ最大の賞賛となる。
本物の芸術、真の美を目の前にした時、人は言葉を失います。大滝楊柳作務衣が出来上がったときの、当会のスタッフもそうでした。圧倒的なその彩りに誰もが息をのみ、唸るばかりで言葉にならなかったのです。
やがて誰かがつぶやくように、「楊柳の作務衣は人気を集め続けているが、これはそれを凌ぐぞ。傑作だ」と放った言葉に、一同深くうなずいたものでした。
その美しい色彩を醸し出しているのが、大滝織りと呼ばれる織り。この採用により、夏の作務衣として大きな人気を集めている楊柳作務衣の中でも群を抜く、まさに“色彩の美学”とも呼ぶべき品が誕生したのです。
何かと推奨の言葉を連ねたくなるのですが、今回はあえて、とにかく写真の商品をご覧あれとだけ言わせて頂きます。