満を持して黒のデニムに初挑戦
「そろそろ黒だな…」当会主任スタッフからその一言が出たのは、今年の夏の終わり頃、デニム作務衣の新作をいかにすべきかという会議の席でのこと。
遂に来たか、と他のスタッフは奮い立ちました。ウォッシュ、インディゴグリーンとユニークな彩りが続き、いつかは渋さと趣を兼備した黒を出したいという強い思いがあったからです。
しかし、単なる黒では、当会としても、また会員の方々も納得がゆくはずがない…一端わき上がったスタッフの面々も、いつしか腕組み、思案顔しきり…。
しかしそこは作務衣の専門館として常に挑戦の姿勢を崩さず、高いご評価をいただいている当会。モノ作りは難しいほど燃えるもの。やるなら極めつけの黒を…と決意した次第です。
デニムだからこそ、あえてブラックと命名
「素材はデニム、だから黒ではなく、ブラックと名乗りたい」開発に当たってますスタッフ主任が告げた主旨に一同納得。それを受けて製作の現場からは、それならば当会ならではのオリジナルのブラックをかもし出すために、手間はかかるが二度染めの手法を採用したい、との意見。
それから試行錯誤を重ねた結果、先日お洒落の季節の真っ只中に完成の報をうけたのです。
白デニム作務衣
より個性的なデニム作務衣を…と開発したのが、この作務衣です。はっと息を呑むような清々しさを感じる「白デニム作務衣」。この潔いまでの“白”は、作務衣上級の皆様にこそ気軽に着こなして欲しい普段使いの作務衣です。
デニムの浪漫(2)
サージ織りがド・ニームへ、そしてデニムが生まれた。
ニーム市の博物館には、19世紀初頭の女性用の上着が残されていますが、それを見ると、インディゴブルーに染められた糸を表側に、無染色の糸を裏側に使って菱形模様を織り出したサージ生地で、それはまさにデニムそのもの。
このニーム産の綾織り生地を指す「サージ・ド・ニーム」の、産地を示す「ド・ニーム」が一人歩きして、デニムと呼ばれるようになったのです。
かつてのニームでは、毎日のように織物マーケットが開かれ、仲介業者が集めた品物を、ローヌ河に通じる運河で待ち受けている船に積み込んでジェノバへ送り出していました。
そしてジェノバ港からは大型の貨物船が仕立てられ、アメリカへ向けて、デニムは新天地へと向かう沢山の人々の夢と共に船出して行ったのです。
デニムが着るだけで人の心を弾ませるのは、そんなドラマが秘められているせいなのかも知れません。
デニムの浪漫(1)
夢と共に大西洋を渡った生地。
陽光がオペラのような賛歌を振りまく。
風が鳥のような飛翔を誘う。
人々の歓声と笑顔が弾け、船はゆっくりとヨーロッパの岸を離れゆく。
一路、新天地アメリカを目指して――。
その夢と共にデニムも行く。
数え切れぬほどの希望を、その粗く温もりのある生地のひと織りに込めて。
やがてそのブルーは海と同化し、さざ波のように世界へと駆け、年齢も性別も時代をも越えて、人々を魅了し続ける。今も、未来も――。
デニムの故郷である南フランスの街“ニーム”
デニムの故郷、南フランスのラングドック地方に位置する街、ニーム。昔から水に恵まれた土地で、街の名前の意味も「南の泉」を意味しています。
農作物に適した地味豊かな平野。パリやリヨンなどの都市に通じる街路を持ち、地中海へと続く道を持っていたこの街は、経済的な発展を見せ、15世紀の興った繊維工業と結びつき、さらなる発展を遂げました。
18世紀になると街には織物学校も作られ、やがて産業革命の余波が伝わると、染織工程ばかりではなく、織りの工程にも分業制ができ、生産量はぐんと高まりました。
やがてニームは織物の街として栄え、その織物は、地元の市だけではなく、ついには新世界であるアメリカへ至るようになります。
アメリカへの輸出品であるブラックタイやカシミアのショールなどの商品に交じっていたのが、当時、ニームの市民が普段着にしていたサージ織りと呼ばれる粗い生地で、これが現在のデニムの原型だと言われています。
インディゴグリーンデニム作務衣
「伝統芸術を着る会」の輪が広がるにつれ、会員の皆様のご要望も実に多様化していきます。
私どもは、これらの会員の皆様の声を、次の商品開発のための貴重なご意見として反映させていただいています。
今回は根強い人気を誇るデニム作務衣のなかで色違いを望まれる方が多く、モニターアンケートの結果、圧倒的に多かったのがグリーン系のデニム作務衣。
そこで、いくつかのグリーンの作務衣の試作を繰り返す中で、秀逸な色合いを見せる見事なグリーンデニム作務衣が完成いたしました。
グリーンという命題を頂いた私どもは、いくつかの試作に取り掛かりました。
単にグリーンという単一色では醸し出せない微妙な色合いと、デニムのジーンズにも似た素材感を失わない個性的な作務衣に挑戦しました。
ブルーの完成した作務衣にグリーンを二度染めし、一着一着が微妙な色合いを見せたとき、言い様のない満足感が走りました。
ところで、モニターアンケートでグリーンが圧倒的に多かった事実に、私どもは意外な驚きを感じました。
今や、作務衣は私どもが考えている以上に、色合い、素材、着方のバリエーションが広がりつつあることを痛感しました。
サマーデニム作務衣
夏もデニムを愉しみたい!そんなデニムファンからの声から誕生しました。
「もっと、いろんなデニム作務衣を作って欲しい」「夏のデニム作務衣が欲しい」そんな名強いデニムファンの声にお応えすべく、当会スタッフが試行錯誤の末、開発したのがこの「サマーデニム作務衣」。
当初、夏のデニムなのだから、薄手の生地を使おうという意見が出て、誰もが納得して薄手のデニム生地を作ろうとしていたところ、デニムファンの方からのお便りに「あのごわっとした生地にこそデニムの魅力がある」との文面を発見。急遽方向転換、一から夏のデニムを考え直しました。
そして出来上がったのがこの作務衣。あえて素材はごわついたデニム生地のまま。袖にかがりを付け、風通しを良く。パンツをバミューダ型にして、涼しげな遊び心いっぱいのサマーデニム作務衣の完成です。
丈夫なデニム生地だから、どんな場所でも気にせずに、思いっきり動けます。夏、話題になりそうな新感覚の作務衣です。
ウォッシュデニム作務衣
お待たせしました。洗い晒しのブルーデニム、いよいよ登場です!
三年前に開発した「デニム作務衣」。
その後、ご購入いただいた方から色合いについてのご要望がたくさん寄せられました。
そのほとんどが、次はもっと明るいブルーが欲しいというものでした。確かにデニムのイメージカラーといえば、ネイビーというより洗い晒したブルーが主流。作務衣ということで少し遠慮していた当会としても、全く異論はありません。
洗いを重ねてウォッシュアウト。写真のような洗い晒しのブルーデニムが完成しました。
これまでのデニム作務衣にくらべて、さらに年齢や気分を若く見せる新しい一着。カジュアル気分いっぱいにラフに着こなせば、あなたのお洒落感覚は大評判となるでしょう。
インディゴ染デニム作務衣
40~50歳。若い頃のお洒落心がよみがえる!
ストーンウォッシュと言えばジーンズ。ならば、デニム地の作務衣もやってみようとなりました。染めもインディゴ染め――とすべてに新しい試み。「昔はわざわざ使い込んだジーパンを求めたもんだ」という年配の方には逆に懐かしい仕上げかもしれません。
白いTシャツにスニーカー、はやりのバッグなど方にかければ新しい。若い頃のお洒落心がよみがえる一着です。
ストーンウォッシュ作務衣
まず、自分たちが着て楽しいものと考える。しかし、決してわがままではない。どの世代にも通じるポイントをきちんと押さえている。三年モノの作務衣ですよ――と屈託がない。洗いざらしの感覚は、現代の侘び寂びというわけか…
「ピッカピカの新品ってカッコ悪いでしょ?」なるほど、妙に説得力があります…
「せっかく染め上げた生地に軽石かけてたぞ。あいつら何やってんだかねぇ」とベテランの職人が浮かぬ顔。「そういや、やけに洗いをかけてやがったなぁ…」と同調するもの。謎に包まれた若い職人たちの行動が、染め場に不思議な活気を生み出していました。そしてある日、若い職人の一人がおずおずと一着の作務衣を呈示したのです。
全体に、特に衿のあたりに、もう何年も使い込み洗い込んだような跡がはっきりと認められます。何だこりゃ?との問いに大きな声が返ってきました。「ストーンウォッシュです!」
濃淡の隠し柄などセンスもなかなか…
伝統の技法通りに染め上げた正藍染の生地を、意図的に洗いざらしの感覚に仕上げたとのこと。「ピッカピカの新品ってかっこ悪いでしょ?」との問いかけに、ハッとするような説得力がありました。
つぶさに点検すると、染めも確かだし、作務衣の様式・形式もきちんと出来上がっています。しかも、よく見ないと分からないような糸染めの段階を違えた濃淡の生地が、隠し柄のようなグラデーションになっています。
最初は苦虫を噛み潰したような表情だったベテランたちも、「もう少し色落としてもいいかな?」などと乗ってくる始末。
洗えば洗うほどに渋さが出てくる正藍染の味わいがハナからみごとに表現されている作務衣。称して「正藍染作務衣ストーンウォッシュ」の誕生です。若い職人たちの感覚は、いかがでしょうか。
後継者問題 若き職人たちの挑戦
怖いもの知らずの感性が、新しい伝統を育てています。
“古き佳き装い”を現代に蘇らせる――これは、私ども「伝統芸術を着る会」が掲げた大きな目的のひとつです。そして、この目的は皆様のご支援のおかげで着々と成果を上げてまいりました。
しかし、そのことに全力を注ぐとき、待ち受けているのが、もうひとつの大きなテーマ――「次世代へ向けての新しい方向性」へのステップです。
若い芽を摘むことなく、大きく育てたい!
職人の世界で、今最も頭が痛いのは後継者の問題だといわれています。しかし、その芽がまったくないかというと、そうでもないのです。藍染や織物の面白さに目を止めた若者たちが、数こそ多くはありませんが、このところ増える傾向にあります。
彼らは、伝統的な技法を基本として学びながら、一方では、ベテラン職人の及びもつなかい感性や発想で新しいものに挑んでいます。
当会では、決してこの芽を摘むことなく育てていきたいと考えています。そして、機会あるごとに、彼らの作品を皆様にもご紹介していくつもりでおります。
そして今回、ご紹介できるレベルに発表させていただきます。武州の秋元さん(染師)、西ケ崎の七代目たち名人に、時代の変化を痛い程知らしめた若い職人たちの挑戦をお受けとめ下さい。