四十余年の経験と柔軟な感覚が生み出した刺子織の作務衣――燗熟、七代目の技(1)

産地を訪ねて――西ヶ崎
JR浜松駅から車にゆられて30分あまり、西ヶ崎に着く。この地は古くより、いわゆる“遠州”の通り名で知られる織物の里である。
この西ヶ崎で染織の老舗として代を重ねているのが、本日訪れる辻村染織。門を入るときれいに刈り込まれた松が目に飛び込んでくる。昔ながらのたたずまいを残した工舎が点在している。
自宅玄関前に、七代目はいた。
「何でも土台が大事。だから、刺子織でも染にリキが入るね」
辻村辰利さん。七代目当主である。職人気質の気難しさなどはかけらもない。腰が低く実に柔和。それに大の付く照れ屋である。
常に新しい作務衣づくりを求めている伝統芸術を着る会の耳に飛び込んできた風の便り。「遠州に刺子の作務衣あり…」
すぐに開発スタッフが西ヶ崎に駆けつけたのが事の始まりであった。四十余年の技術と経験を持ちながら、柔和な感覚の持ち主である七代目辻村さんの作品の素晴らしさに話は急展開。当会の作務衣づくりに対する姿勢に共鳴してくれた七代目と意気投合の結果、画期的とも言える「刺子織作務衣」が日の目を見たというわけである。
茶を飲みながら、しばしの談笑。「そろそろ参りますか」。不意に立ち上がった七代目。技のほどを見せてくれるという。
「白糸の模様を映えさせるためにも、土台となる染めが大切」という七代目。刺子に一番適した色の度合いは微妙だという。
「浅葱(あさぎ)じゃ薄く、紺までいくと濃いし。藍と縹(はなだ)の中間というところでしょう」
つまり、この藍地の色合いの出し方…これが技のひとつである。「どうしても白糸の方に目が行くけど、リキが入るのは、やはり染めだね」

泥染作務衣 古代茶と羽織(どろぞめさむえ こだいちゃとはおり)

まとえば弥生、縄文の香りがする…。当会にしか創りえなかった強烈な自負も込めて。
古事記や万葉集にもすでに記されている、染めの原点とも呼ぶべき土染め(はにぞめ)と呼ばれる古代染色技術の復刻により作られた作務衣です。
藍にて一度薄く染めたのち、泥染めを施しています。だから彩りの深さが格別なのです。現代の暮らしにもしっくりと馴染むのは、すべてのお洒落の原点なればこそ。羽織を合わせれば、古代の浪漫もより完璧に。

古代の浪漫 泥染(2)

せわしい世の中にあって古代に夢馳せる贅沢。
素材はもちろん天然の恵み豊かな綿100%を採用。その無垢な素材を、藍にて一度薄く染め、その上からりょくばん酸化第一鉄を含んだ泥を用い、媒染に特殊な石灰を使いながら染色。
そこから、えもいわれぬ素朴な温もりを放つ彩りが生まれたのです。いや、何千年ぶりに蘇ったというのが正解…。
しかも、これも先人の知恵の賜物なのでしょうか、泥には多くの鉄分が含まれており、まとうだけで身体にいい影響を与えてくれます。
群馬県にある有名な温泉地、伊香保温泉がその顕著な例で、赤茶けた不透明なお湯は鉄分の多い証拠。昔から「伊香保温泉は皮膚病に良い」と言われ、お湯につかったり赤茶けた手ぬぐいやタオルを持ち帰り、それで浴衣や寝間着を作ると蚊や虫を防ぐ効果があったとか…。
科学染料を一切使わず、いわば無農薬製法とも呼べる純な工程から生まれた「泥染作務衣 古代茶」。
もちろんすべてが手染めのため、一着ずつの仕上がりが微妙に違います。だからこそ手に入れた一着は、世界でただひとつ、その方だけの一品。
汚れを知らない弥生、縄文時代の人々の無垢な息吹を肌で感じながら、古代に思いを馳せつつ静かな時を過ごす…。
せちがらい世の中だからこそ、そんな心の贅沢を存分に愉しんでいただきたいと思います。

古代の浪漫 泥染(1)

古代びとが夢見たお洒落の原点。大地の温もりを伝える染めがここにある。弥生、縄文人が見に付けた染を遂に復刻!
私どもではこのたび、古事記や万葉集にもすでに記されているほど古く、染めの原点とも呼ぶべき土染め(はにぞめ)と呼ばれる古代染色技術の復刻を遂に実現しました。
土に含まれている鉄分など、様々な成分が作用していて、実に素朴で深みのある独特の色合いを醸し出すその染めによる彩りは絶妙そのもの。古代びとの浪漫を秘めた、幻の染めの一着をご覧あれ。
大地を着る。太古をまとう。これぞ温故知新。
新作に用いられた泥染めの基本となった土染め(はにぞめ)は、近年では東京都町田市の和光大学講師であり、古代技術の研究を専門とする関根秀樹氏が復元に取り組み、マスコミなどで取り上げられ話題を呼びました。
そして遂に今回、その古代の浪漫あふれる染めを復刻し、作務衣としての開発に成功したのですが、実はそのきっかけは、記事を目にした当会のご意見番からの叱咤激励でした。
「これこそお宅が挑戦するにふさわしい技。素朴そのもので、しかも太古の浪漫にあふれている。弥生時代や縄文時代に生きた人たちが身にまとった彩りをまとえるんだから、考えただけでワクワクしてくる…。さあ、ぐずぐずしないで始めようじゃないか」
そしてこの秋、遂に完成した作務衣はこれまでスタッフの誰もが目にしたことのない、素朴でいながら、どこか力強さを感じさせる一着。それは、私どもにしか創れないという強烈な自負もあったからです。染めの原点を復刻し、古代びとのお洒落心をも現代に蘇らせた、「泥染作務衣 古代茶」の誕生です。

土布 香雲染作務衣 三笠(どふ こううんぞめさむえ みかさ)

圧倒的な風格は、静かな威厳までも醸し出す――。
もしも作務衣が人格を持ったならば、きっとこの作務衣はこう言うに違いありません。「私は着る方を選ぶ」と。
当会の長い作務衣作りの歴史の中で、素材、染め、意匠、色合い、そのすべてにおいて至高というレベルを欲しいままにした作務衣はかつてありませんでした。
和装の世界で大きな話題を放っている、自然派志向で希少価値の高い「土布」と「香雲染め」を採用し、現代感覚あふれる洗練された意匠を施したその風格は、威厳をも感じさせ、圧倒的な存在感を醸し出しています。
ひとつひとつの全てが手作りであるため、出来上がった品はそれぞれ風合いや色合いが微妙に違います。だからこそ、この一着は、手に入れた方だけが堪能できる、世界に一つだけの一品と成り得るのです。
すべてが手作りのため寡作であることはもちろんですが、当会の最高峰を誇示する作務衣ですから、袖を通すことのできる幸運な方はそう多くはないはず。来客の際の先方の驚き、散策の道での行き過ぎる人々の羨望の眼差し、選ばれた方のみが味わえる優越の極みを、この一着で存分にご堪能下さい。

土布香雲染(どふこううんぞめ)について

豊かな自然の恵み、完成を鳴り響かせる意匠。着る方を選ぶ一着。話題騒然、自然派志向の貴重な生地と染め
和装の世界でいま、大きな注目を浴びている織りと染め、それが「土布(どふ)」と呼ばれる生地と、「香雲染め」です。
話題の要因は、豊かな自然志向と希少価値。
「土布」とは木綿の太糸を用いた粗布のことで、手紡ぎ、手織で丹精込めて織り上げられたその大らかさと素朴さは、作り手たちの温もりを実感させてくれます。
「香雲染め」は植物の根などを用いる単なる草木染めではなく、根はもちろん、葉、そして泥を用い、太陽の光にさらして実に長い時間をかけて染め上げる、まさに自然の恵みをすべて注ぎ込んだ究極の染め技法。その貴重さは、泥染めで有名な、あの大島さえ越えるといわれています。
この出会いはセンセーションを巻き起こすこと必至
「土布」と「香雲染め」、その両者をひとつに採りいれた作務衣が完成したというのですから、これは作務衣愛好家はもとより、和服の世界でも大きな話題を呼ぶことは必至です。
豊かな天恵を人知を駆使して仕上げた意匠は、作務衣も遂にここまで来たか、と思わず羨望のため息が出るほど。
この、和の金字塔とも言うべき一着に袖を通す幸運な方は、一体どなたなのでしょうか。

草木染作務衣 椚と桑(くさきぞめさむえ くぬぎとくわ)

しっかりとした手ごたえの生成りの綿を、社の木々から搾り採った樹液で染め上げる…素朴で清々しい草木染作務衣。袖を通せば木のぬくもりが伝わり、大木に抱かれ遊んだ懐かしい感触が蘇る。着込むほどに、しっくりと肌に馴染む、草木染ならではの味わいです。
「草木染作務衣 椚」は、草木染めならではの暖かみのある明るめの茶。椚の木肌のぬくもりが感じられます。
「草木染作務衣 桑」は、グレーに薄茶を合わせたような微妙な色合いの桑。素朴な風合いをお楽しみ下さい。

染料藍と草木染め

あの“樹木染め”で絹の作務衣を仕立てました。
大変な反響を呼んだ樹木染作務衣「天竜」。当会としましては、樹木というイメージもあり、あくまで秋から冬へかけての季節商品としてご紹介いたしました。綿で総裏つきという仕立てもそのためだったのです。…ところが、お買い求めいただいた会員の方から「春にも着たい」とか「正絹で作って欲しい」などのご要望が殺到。急遽、産地の天竜と連絡をとり、樹木染めによる正絹作務衣の開発を決定。やっとの思いでご紹介できるまでにこぎつけた次第です。
これからの季節ならやはり“絹”がいい!
染液は綿作務衣と同じく杉皮を煮出したものですが、絹に染めるとまたひと味もふた味も違った作品となりました。面の素朴さに対して、絹ならではの光沢や風合いが、いかにも春らしく優雅に仕上がっています。優劣はつけがたく、お好み次第というところですが、これからの季節なら、やはりこの「絹天竜」に軍配を上げざるを得ないでしょう。
樹木と絹――と聞くと一見ミスマッチのように思えますが、桑の葉を食べた蚕から得られる繊維と大地に根をはった樹木から得られる染液の組み合わせは、まさに自然の一体化。自然を纏う感覚は、さらに立体的でさえあります。絹の大小さまざまな三角断面のプリズム効果から生まれる輝きが加わり、それは、ふり注ぐ太陽の光の中でひときわ印象的に映える作務衣の誕生です。

樹木染作務衣 天竜と羽織(じゅもくぞめさむえ てんりゅうとはおり)

樹木で染めた作務衣には、目で見る香りがある。手触りで伝わる香りもある。空間が自然に蘇ってくる幻想がある。
作務衣としては異例の総裏地付となっています。
これは、一重の作務衣では冬が寒くて…という会員の皆さまの声、さらに試着会の時に「この裏地が付くと暖かい上にサラサラして、着たり脱いだりがとてもラク」というお言葉に対応したものです。
自然を纏う感覚、目や手触りで知る樹木の香り――自然と匠の技が一体化した一着です。