コーデュロイ作務衣開発秘話(2)

常識にとらわれることなく、いいモノはいい!と断言したプロの目の確かさ!
素材は綿、色合いは最もコーデュロイらしいグレー系。
さあ、試作開始です。コーデュロイを織り慣れた職人を招き、指導を受けながら試し織りが続きました。
畝幅の広いもの(1インチの間に5~6本)を鬼コール、9本くらいのものを中コール、15本くらい入れると細コールといいますが、この作務衣は中コール。畝幅は広すぎても細すぎてもちょっと嫌味です。
このコーデュロイのハイライトは、何といっても浮いた毛緯の先端を剪毛して毛羽立たせる工程にあります。そして、実際にカットして独特の毛羽立った畝が次々と姿を現してきました。
ところが、わが職人たちはもうひとつ浮かぬ顔…ん?どうしたことでしょう。急遽、額を寄せてのミーティング。そして、とんでもないことを言い出したのです。
「剪毛するのをやめよう」――スタッフ一同、呆然。
コーデュロイとは、浮いた毛緯をカットして毛羽立たせるもの、それは前提というか約束事に近いものであるはず。「そりゃよく分かってるは、作務衣ということを考えると毛羽立たせない方が味があるんだ」とベテラン織り師。
そして、剪毛して毛羽立った布地と剪毛していない布地を並べて見せてくれました。
驚きました。さすがプロの眼は凄い。毛羽立った畝には奥行きが感じられません。一方、剪毛前の布地は余韻があるというか、畝も生きていて独特の渋さがあります。
一般的な常識に振り回されることなく、きちんと本質を見極める職人の目に脱帽。この人たちと作務衣を作れることに誇りさえ感じてしまいました。

コーデュロイ作務衣開発秘話(1)

“王様の畝(うね)”が秋を侍らせる
お坊さんがコール天の作務衣を着ていたとか。何でも、知り合いの呉服店で、余り布を使って一着だけ作ってもらったとのこと。
「これがなかなか小粋で、目立っていたよ」という話。意外に反対意見がありません。どころか、「厚手だから暖かそうだしね」とか「洒落た感じで仕上がるかもしれない」とか、もう決まったかの如き発言が相次ぎました。
これだけみんなの頭の中にイメージが浮かぶのなら大丈夫――決まる時はこういうもの。秋の新作は、かくして「コーデュロイ作務衣」に決定です。
二重織りでタテに畝を走らせる――暖かさや丈夫さも抜群!
その昔、西欧のある王様が城の兵士にこの布地の服を着せたところ、とても美しく立派に見えた――という話から名付けられたcordeduroi(王様の畝)。
この“コーデュロイ”、わが国には1891年(明治24年)頃に初めて輸入されたと言われています。特徴は、平織りの地の上に、パイル織りを重ねて、毛緯をタテ糸の上に浮かせ、その浮いた毛緯を中央で剪毛(切断)して毛羽立たせ、タテの方向に毛羽の畝を走らせることにあります。
これが王様の畝と呼ばれるコーデュロイならではの畝模様。畝の凹凸感が見ても触っても小粋な感じで、とてもお洒落。さらに、織りを重ねているため厚手に仕上がり、暖かさや丈夫さは抜群。風合い、機能ともに、秋の作務衣に申し分なしといえましょう。

作務衣と私

皆様はどのような時に作務衣をお召しになり、また、どのように作務衣を着こなしていらっしゃるのでしょうか。このコーナーでは、「伝統芸術を着る会」の会員である作務衣ファンを訪ね、その近状をレポートいたします。
今回は、千葉県柏市で手打ちそばを作っていらっしゃる高橋様を訪ねました。
50歳で飛び込んだ修行の道
私が蕎麦屋を始めたのは三年前です。いわゆる脱サラですが、手打ち蕎麦を教えてくれるところを、あちこち訪ね歩き、信州のあるお店で住み込みで修行を始めたのは50歳のときでした。
一般には一人前になるまで10年の修行が必要といわれますが、私の場合は今後がありませんので、足掛け二年で切り上げ、商売をしながら修行を積む毎日です。
勉強不足を補うため、他に負けない食材と雰囲気の店にしたいと思いました。さいわい、竹林のそばに遊んでいた土地を借りて、モダン和風をテーマにした蕎麦屋らしからぬお店を建てました。
蕎麦粉は北海道産を取り寄せ、蕎麦粉100%の生粉打ちが看板商品です。おかげさまで、口コミで少しずつ人気が出てきました。
モダン和風の店に作務衣が似合う
味さえ良ければいいじゃないか、というので、つい最近まで普段着にエプロンで通してきました。ところが、お店のムードによく合うからと、知人が作務衣をプレゼントしてくれました。
最初は気恥ずかしかったのですが、着てみると意外と好評で、結局、私のユニフォームになってしまいました。朝、蕎麦打ちを終えて作務衣に袖を通すと、気分もピシッと引き締まります。そうなるともう一着欲しくなります。
そんな時目にとまったのが「伝統芸術を着る会」のカタログでした。
新作の案内が届くのが待ち遠しいですね。
「作務衣かたろぐ」が届けられますが、今号はどんな特集があるか、どんな新作があるかなと封を開けるのを楽しみにしています。
作務衣を作業着だけにしておくのはもったいないじゃないですか。今では休日に家でくつろぐ時や、正月など客を迎える時にも作務衣を着ていきます。
「作務衣かたろぐ」は商品を売るだけでなく、どんな時に着たら良いかなどTPOの参考にもなるので、じっくり拝見しています。これからも新作の開発をよろしくお願いします。
「すずめ庵」東武野田線 豊四季駅下車、徒歩約15分
作務衣ファンからの皆様のお便りを募集しています。作務衣を着たあなたをぜひご紹介下さい。

作務衣ファンからのお便り(2)

「日本の伝統や文化を外国人に教わるなんて…」
「ドイツの得意先の社長が商用で来日したので、お土産に絹の作務衣を二着差し上げたところ大喜び。帰国してからも夫婦で着ていると礼状がきましたよ。ゆかたよりスマートだし、むこうの人も馴染みやすいみたいですね」(55歳・広告代理店経営)
そういえば、日本に日本文化の研究や武道修行に来た外国人の方からご注文もよくあります。自分の国の伝統や文化を外国の人に教わるということですか。
これではいけない!と私どもの普及活動にも一段と力が入る次第です。
「作務衣での外出、最初は勇気がいったが…」
「作務衣を着て外出するのに、最初は勇気がいった。でも、一度そのまま電車に乗ってからは平気になり、どこへでも出かけられる。絹古彩の鉄紺に羽織を合わせて、先日友達の結婚パーティーに出席したら注目のマトとなって、もう病みつきになりそうです」(31歳・公務員)
恥ずかしいことはありません。これからも積極的にご着用になり、モテまくって下さい。
「定期的にカタログを送って欲しい」とご住職。
あるお寺のご住職さまから、お電話をいただきました。
「地方のせいか、本格的な作務衣を求める機会がない。お宅の品は実に心がこもっていて素晴らしい。カタログを定期的に送って欲しいのだが…」
ご安心下さい。『作務衣かたろぐ』のご購読はいつでも受付中です。
ご叱責やご提案――ありがたいことです。
今後も作務衣についてのご意見やご感想、開発へのご提案やアドバイス、さらに詩、短歌、俳句、書、絵などの作品投稿も大歓迎です。また、できますれば作務衣姿のお写真をご同封いただければ、これ以上ない喜びです。

作務衣ファンからのお便り(1)

ご愛用の皆様からさまざまなお便りが届いています――
伝統芸術を着る会の作務衣や藍染などの作品は、北海道から沖縄まで、時には海を越えて外国にまで届けられています。そのご愛用の皆様から、着用の感想やエピソード、そしてご提案などが、毎日のように当会に送られてまいります。その中からいくつかをご紹介してみましょう。
寄せられるお便りの封を切る時、なんだかワクワクしてしまいます。お届けした作務衣が、皆様の暮らしの中でどんな彩りとなっているのか…それを思う時は、ちょうど娘を嫁に出した親のような気分なのです。
「作務衣のおかげで茶道教室の看板おやじに…」
「女房が自宅でお茶を教えていて、金曜の夜は、若い娘さんたちに我が家は占領されてしまいます。そんな広い家ではないから、どうしても私の姿は目に入ります。
こちらは週末ぐらいのんびりしたくてひどい格好してまして、女房にいわせると、どうもジジくさいとか。
で、女房と相談して武州の作務衣を着るようになったところ、これが若い娘さんたちに大好評。茶席のお客役として招かれたり、外で会ってもあいさつされたり…。
いつも同じじゃみっともない。今度は絹の作務衣を着てみようか――と女房に言うと、『仕方ないわね』といつもは固い財布のヒモをゆるめてくれます。
だって私は、今では、大沢茶道教室の“看板オヤジ”なんですから…。
今のうちなら大丈夫ですので、次々と新作を発表してください」(52歳・会社員)
こんなほほえましいお便りを受け取ると、嬉しくなってしまいます。新作、頑張ります!

あったか作務衣 暖(あったかさむえ だん)

新素材の蓄熱効果で常に抜群の暖かさ
作務衣の進化の役に立つものであれば、森羅万象のあらゆる垣根を越えて探し求め、採り入れることを指標とした「作務衣進化論」。それは私どもが作務衣の開発に着手する際の大きな基本理念のひとつです。
「冬には冬の作務衣を」というテーマが掲げられれば、洋の東西、歴史の古今、分野の相違を問わず、時間を惜しまず研究するのが信条。その開発のための奔走の結実として出会ったのが、「トレヒート」という新素材でした。
この素材、太陽の光エネルギーを吸収し、熱に変えてたくわえ、その保温性により心地よい暖かさが味わえる、まさに科学の力の賜物。これを使えば、究極の冬の作務衣ができるのでは…新素材を前に、スタッフが密かに悦に入ったのは言うまでもありません。
進化も遂にここまで…究極の「暖の作務衣」が完成
そしてこのたび、完成の日の目を見た、和の装いと現代科学の結晶とも呼ぶべき新作は、野暮な重ね着など決してさせない、まさに「暖の作務衣」。
新素材により作務衣の中の温度が高まり、常にぽかぽかと暖かいことはもちろん、原綿練り込み方式と呼ばれる織りによって、冬場に付き物の嫌な静電気も防止し、しかも自宅での洗濯も遠慮なくしていただけます。
さらに優れた抗ピル性で毛玉を防止し、いつまでも美しい外観を保てるという特徴もあり、いやはや当会の作務衣もここまで進化したかと、スタッフも感慨深げでありました。
想像を超えるその暖かさを、ぜひご体験下さい。

遠赤キルト作務衣 日和(えんせききるとさむえ ひより)

冬には冬を楽しむ作務衣をまといたい。
冷えるからといって作務衣はちょっと…などと言っているうちはまだまだ。寒い冬も作務衣を着る。これが作務衣党の心意気というものです。そんなとき活躍するのが、暖かい作務衣の代表格の一つ、キルト作務衣です。
部屋で暖をとるのもいいのですが、やはり四季を楽しむという作務衣の精神からすれば、思い切り障子を開け放ち、その季節をそのまま身体で受け止める気概を持ちたいもの。
キルト作務衣があれば、寒さを楽しむ余裕もできる…
そう、暖かいキルト作務衣があれば、北風を楽しむのも案外いいなぁ…と思えるものなのです。
綿100%の裏地の中に軽量のポリエステル綿をはさみこんで、肩から足首までしっかりと加工されたキルティングで寒風もなんのその。さらに新作は、暖かさ抜群の遠赤外線加工を施していますから、その抜群の保温性は推して知るべし…です。
また、帯電防止加工の裏地を使用しているため、この季節につきものの、あの嫌なパチパチ感がありません。寒い冬こそ、新作のキルト作務衣で行動的に!

キルト作務衣 鉄紺と羽織(きるとさむえ てっこんとはおり)

当会の発足とほぼ同時に開発され、冬の作務衣としてすっかり定番となってしまった「キルト作務衣」に待望の新作が登場しました。
表地に風合いの良い綿つむぎ、そして裏地は滑りの良いタフタ、この間にポリエステル綿をはさみこんで表から裏までを通して縦刺し。
つまり、従来のキルト作務衣とは違い、はっきりとキルティング加工を表面に見せ、それをデザイン化しています。縦刺しにより中綿がしっかり挟まれて暖かさもアップ。洗濯しても中綿の縮みはほとんどありません。
色は深みのある上品な鉄紺、縦は同色の糸で刺し、衿と肩、袖口は白の刺し糸。直線の組み合わせによるすっきりした刺し柄となっています。
重さやごわごわ感はまったくなく、むしろ、スマートで軽やかな感じのキルト作務衣に仕上がりました。

キルト作務衣 利休鼠、利休白茶(きるとさむえ りきゅうちゃ、りきゅうしらちゃ)

利休好みの彩り“ねずみ”をキルト作務衣に復元しました。
緑みを帯びた中明度の鼠色――新しいキルト作務衣の色合いは“利休鼠(りきゅうねずみ)”です。
端正で微妙なこの利休鼠の色調は、おなじみの“利休茶”と並んで「粋」好みの江戸人に愛好され、大変な人気を博したと言われています。明治後期になって、この鼠は流行色として再びスポットを浴びてきました。
北原白秋作詞の「城ケ崎の雨」という歌にも「利休鼠の雨が降る…」とうたわれていますので、ご存知の方も多いかも知れません。
草木染調の染液に漬けて染め上げた糸と本藍染の糸を使い、伝統的な交織技法で織り上げたこの古色の彩り。まさに「利休好み」と呼ぶにふさわしい色調です。
ぼてぼて、ごわごわ感なし。格調や渋さも楽しめます。
表地は、木綿100%。そして同じく木綿100%の裏地の中に軽量のポリエステル綿をはさみ込んでキルティング加工を施しています。つまり、昔で言うところの“綿入れ”という感じ。しかし、昔ながらの綿入れのような、重くてごわごわした感じはまったくありません。
作務衣は着たいけど冬の寒さがちょっと辛い…という方。ただ暖かいだけではなく、作務衣ならではの格調や渋さが楽しめる、嬉しい“冬の作務衣”です。

高機能作務衣コート(こうきのうさむえこーと)

まさに、あり得るべきものでした。
当会でも、作務衣の開発を始めるにあたり、専用コートの要・不要は十分に議論を尽くしました。しかし、当時はまだ作務衣が特殊な装いであったこともあり、コートまでセットにするべきではないと判断したのです。
そして現在、すっかり大人となった作務衣は多くの人の暮らしに溶け込み、万人の認める装いとして愛用されるに至っています。
となれば、逆に作務衣のためのコートを発表しなければ、作務衣を愛用していただいている会員の方に礼を逸するのではないかと考えた次第です。
このコートを着用なさる方は、真に作務衣を理解され愛されている方ということ。誇りをもってお召し下さい。