圧縮ウール作務衣(1)

熟慮熟考を重ねた新作を満を持して贈ります。
俗に桃栗三年、柿八年と申します。雨風に耐え、時の流れを肌で感じながら、ひたすら内へ内へと想いを込めて精進すればこそ、やがてたわわな実を結び、外界へと旬味を解き放ちつつ、万人の喜びを得ることができるのです。
作務衣も、またしかり。東奔西走、時間をかけて良き素材を探し抜き、熟考熟慮、織や意匠に凝りぬいてこそ、万雷の喝采を得るものが生まれる…これもまた自然の摂理。
誠に恥ずかしながらこれまでの私どもは、作務衣の普及に勤しまん、急ぐべしとするあまり、その基本中の基本姿勢を忘れておりました。これまでの慌しいとも云える新作連発もその表れ。もちろん自信はございましたが、如何せん技に荒れがみえはじめしていたのは否めません。実際そのことを始め、旧知の会員の方々から、苦言をお小言をいただいていたのは事実…誠に申し訳ございませんでした。
じっくりと取り組む…それが本来の新作開発の姿
その点を深く反省し、本格的な装いの秋に向け、初心に帰った新作の開発に勤しもうとスタッフ一同、新たに心をひとつに致しました。そしてこの数ヶ月というもの徹底的に議論を重ね、ようやく満を持しての最新作「圧縮ウール作務衣」のお披露目と相成った次第です。こうなったのも私どもの我がままとはいえ、本当にお待たせしました。
今回の新作の素材、人気のウールでいこう…とまでは春には決まっていたのですが、単なるウールでは創作の見せ所がない、ましてやお待たせしたかいがない。そこでスタッフ各人が時間をかけて持ち寄った素材やアイディアを机上に乗せて吟味し尽くし、最終的にこれでいこう!と決定したのが圧縮ウールという素材。

コーデュロイ作務衣 銀嶺

ヨーロッパのエスプリと和の様式が心地良く昇華・調和したコーデュロイ。
その昔、西欧のある王様が、白の兵士にこの布地の服を着せたところ、とても美しく立派に見えた―という話から名付けられたコーデュロイ(王様の畝)。この布地の特徴は、平織りの地の上にパイル織りを重ねて、毛緯をタテ糸の上に浮かせ、その浮いた毛緯を中央で剪毛(切断)して毛羽立たせ、タテ方向に畝を走らせることにあります。
畝が創り出す独特の表情と光沢にぞっこん
ヨーロッパのエスプリが香り立つ、このコーデュロイ独特の“畝模様”を存分に活かし、和の様式と見事に昇華させたのが、コーデュロイ作務衣の最新作「銀嶺」です。彩りは、装いの旬であるこの季節にしっくりと落ち着いた雰囲気で溶け込むシルバーグレー。縦に走る畝の織りの効果により、記事がまるでシルクのようにしっとりと落ち着いた、上品な光沢を放っているのがたまりません。
さらにその畝が身体の動きや光の加減で彩りの具合を微細に変化させ、単なるグレーではない、実に無数の深みのある表情を醸し出しているのもコーデュロイならではの魅力のひとつ。この季節の柔らかな光の中でご覧いただければ、その美しさは一目瞭然…。
もちろん保温性も豊か、着こなしも実に幅広く。
とはいえ戸外は寒いから…などとご心配なく。二重織りによる仕立てですから保温性も驚くほど豊かで、しかも肩の凝らない軽やかさがまた嬉しい。着こなしにおいても、さすがは和洋の利を調和させた一着。長袖のTシャツやスニーカーなどを合わせても、実にしっくりとまとまり、和洋折衷の粋な着こなしも存分にご堪能いただけます。

2000年作務衣 飛翔

15年の経験とご愛用者の声から生まれた未来を先取りした一着。
これはいわば‘99年の創り納めの一着。ということは、当会15年の創造力の結晶ともいえる作品、ヘタは打てません。そこで、実に多くの会員の方々から、最高の作務衣の姿に対する理想とご意見をいただきました。
心地よい暖かさと絹のような光沢がいい!
程よい光沢が欲しい。生地にコシがあるモノがいい。自然に溶け込むような彩が好きだ。暖かくて着やすいことはもちろん、丈夫でなければ…と、その希望は実に多彩。
そこから生まれた新作は、その意見に堂々と胸を張れるものとなりました。重ね織りによる生地の光沢と微細な表情はもちろん、暖かさと丈夫さも実現。細やかな目詰まりにより防寒性も備え、暖かさも充分な頼れる一着です。新しい時代を迎えるに相応しいその逸品となりました。

正絹刺子織作務衣 鳳凰(3)

まるで有名人になった気がしてくる…貴方を変える作務衣です。
他にはない良いモノを着るということは、精神を凛々しく変えること。袖を通すだけで背筋が伸び、顔つきまでキリリとしてくるのがその証明。どっしりした存在感、沸き立ってくる誇らしい慶び、自然と集まる周囲の視線、薫り立つ粋…。まるで自分が、いちやく有名人になった気がしてくる…それもこの作務衣の魅力のひとつです。
内ポケットやズボンの裾など、意匠のこだわりにもご注目!
新作の「変身の一着」の効果とは…
①ブランド効果→いいモノを着ているという満足感が、顔つきを凛々しくし、立ち居振る舞いにも気品が出ます。
②羨望効果→身体の動きに合わせて微細に変化する絹刺子の格調の高さと渋い光沢は、周りから見るとまぶしいほどに羨ましい…。
③振り返り効果→威風堂々とした表情と存在感に、すれちがう人々が思わず憧れをいだき振り返ります。
その魅力をさらに高めるのが、随所に工夫を凝らした細やかな意匠です。そのひとつが上着の内ポケット。例えば大きなポケットに小物や小銭などを入れ込んで音を立てて歩いてしまっては野暮というもの。そこで小銭を収める内ポケットを設けました。
また、お洒落の通は足元から人を見ると申します。その際、履物などはもちろん、視線がゆくのはズボンの裾。そこで、お洒落なボタン留めにし、タックによる適度なゆとりと締めの妙を創り出すことにより、立ち姿全体を眺めた際の終点位置として、足元にキリッとしたポイントを表現しました。

正絹刺子織作務衣 鳳凰(2)

この「主張」が貴方を変える、“きぬざしこ”が登場!
ならば素材は生地の王者である絹、織りは個性的な刺子織しかない…。そうくれば“きぬざしこ”。他には決して類を見ない独創性の高さ、絹と刺子が創り出す微細な表情の美しさ、着る方を凛々しく変えるその主張の高さは当会随一。折しも今世紀最後の秋、ならばシリーズの中でも最高峰を成す金字塔的な傑作をお届けしようと、勇んで開発に臨みました。
新作は、3割増しの絹、3色の糸を使った贅沢な一着。
新作は基本の糸から追及を始め、より彩りに深みを出すために、シリーズ初の3色の糸を用いることになりました。濃淡2本の藍の縦糸を基本に茶を用いた横糸の加減で変化を醸し出すのです。色は錦秋に相応しく、藍と茶を掛け合わせたような渋い中にも実にお洒落な雰囲気のモノでいくと決ったのですが、問題は横糸の加減による彩の深さの加減。浅くては淡白、深すぎてはしつこい…。
試作を重ね、ようやく全員一致でうなずいたのが12枚目の生地。3割増しの絹が醸し出す美しい光沢、藍と茶の調和に刺子が見事なアクセントを見せるその生地の彩りの深みは絶妙。
その表情は絹と刺子の効果により、光加減や見る角度によって藍にも茶にも見え、また何とも云えない中庸の彩りも現れると云う、まさに千変万化。全体の雰囲気は、素朴さも極めれば華になる…とでも云うのでしょうか。朴訥な中にも、かっこたる無言の主張、存在感を放ち、袖を通せば顔つきまで変えてしまうような凛々しさも同時に兼ね備えています。
次回はいよいよ「正絹刺子織作務衣」に迫ります。

正絹刺子織作務衣 鳳凰(1)

着る人を「変身させる主張」を持った一着こそ当会の作務衣
着るだけで背筋がピンと伸び、心を大らかに解放してくれる、古き佳き和の装い、作務衣。しかし、それを単純に復刻するだけでは、作業衣(さぎょうい)の延長にすぎない…。精神、立ち居振る舞い、顔つき、品格…袖を通した瞬間から、内面と外面の双方において人をグッと高みへと押し上げ「変身させる主張を持つ一着」こそ、伝統芸術を着る会の作務衣。
その考え方を基本に、私どもは創立以来16年間、さまざまな主張を持った作品を創り続けて参りました。日本人らしさを取り戻すための「武州正藍染作務衣」。若々しい気分を創り出す「デニム作務衣」。気遣い無用で愉しむための「高機能作務衣」。フォーマルな場や訪問着に最適な「正絹作務衣」…と、その一着ずつに込められた主張が、着る方の内面を格調高く変化させ、それが自然に外見へとにじみ出て、周りの人々へも伝わってゆく…そこに多彩な慶びが生まれるのです。
テーマは『錦秋、変身の一着』。
それはいわば、グッチやダンヒルなどの歴史と高品質につちかわれた高級ブランド品を身に付けると、自然と立ち居振る舞いが堂々とし、全身から品格が漂うような変化と合い通じるもの。
そういった作品創りが評価され、おかげさまで私どもも今では、作務衣の専門館、作務衣のブランドと賞賛されるようにまでなりました。だからこそ、人が最もお洒落に変身する錦秋の新作は、「着るだけで自信が沸き上がり、心も外見も見事に変身させる」という私どものテーマの頂を成すモノでなければなりません。
次回に続く…。

綿刺子織作務衣 茄子紺

二度染めによる彩の妙と刺子の力強さが同居した一着。
綿刺子の素晴らしさを再確認できる質感と着心地。静寂な雄々しさがあると要望の高かった「茄子紺」の彩を採用した自信作!
火消し半纏のあの力強さと丈夫さを託しました。
江戸時代、勇猛果敢な火消したちが火事現場でまとった火消し半纏には刺子が施されていました。そこには、生地の補強をするという現実的な機能性はもちろん、火に立ち向かうための力強さの強調と象徴という、精神的な意味合いも込められていたと云います。
私どもが今回の新作に託したのも、刺子本来が持つ、そんな雄々しさと力強さの実現でした。そのため彩りも、静けさの中にも逞しさが感じられると要望の多かった「茄子紺」を採用。二度染めによりさらに奥深さを醸し出すことに成功したことから、その自信と自負を込めて、作品名も剛直に、ズバリと彩りそのものを命名させていただきました。綿刺子の魅力を充分に堪能し、再確認させてくれる一着です。

正絹刺子織作務衣 常盤

季節が奏でる移ろいの波、情緒が最も高鳴る神無月。ついと見上げるおぼろ月に、作務衣の表情もさざめき変わる。その光加減を肴に呑む杯が、ほろろ嬉しい月下の宵。
実りと収穫を迎える錦秋は、作務衣にとっても嬉しい季節。それは、年間を通してこだわりの作務衣の開発に着手し、その季節ならではの旬の一着を創り続ける当会にとって、装いを愉しむのに最もふさわしいと云われるこの季節に焦点を合わせた力作が多いからです。
その中でも絹刺子のシリーズは、生地の王者である絹と、素朴で味わい深い刺子という、いわば装いの両極にある存在をひとつに融合させた類稀なる傑作として高い評判をいただきました。
しかし、ここしばらく新作をお目にかけなかったのは、その人気にあぐらをかいていたわけではございません。大きな期待の壁を飛び越えるには、開発にかける時間が必要だったのです。そして、満を持した最新作、その彩りは永年に渡り愛されたいとの願いを込め、常盤の松のような緑で参ります。
心に落ち着きを与え、目にも優しい彩の現実
“松の如き緑”とは…多くの方が意表を突かれたことと思います。しかしながらこの色は、人気シリーズの新作に相応しい彩を選ぶために、十数色もの試作品を仕立て、吟味とリサーチを重ねた結果選択されたもの。さらに緑は、色調断層のほぼ中間に位置するため、強すぎず淡すぎず、中道の安心感を持ち、目にも優しい色。色彩心理学的にも、心に落ち着きを与える色とされており、男性がまとえば柔らなさの中にも威厳を、女性がまとえば、気持ちを寛がせ、それにより、たおやかさをより一層深めてくれる色なのです。
絹を3割増しにした生地と刺子織のプリズム効果
もちろん、絹刺子とくれば、絹を通常の3割増しも用いた贅沢な生地を、鹿の子の凹凸感豊かな刺子織で仕立てたもの。単純な発色では終わりません。この季節、一日において軌道を低く描いてゆく太陽から、斜めの角度で降り注ぐ優しい光が、絹刺子の生地の表面で、そのプリズム効果により微妙に変化し、単調な緑色ではない、えも云われぬ色彩の妙を描いてくれます。
その趣は、秋晴れや薄曇りの光の中で、そしておぼろ月の月光の下で、典雅に揺れる常盤の松―。絹刺子ファンの方はもちろん、初めて絹をお求めになられる方にも充分に深い満足をお届けできるものと自負致しております。

刺子織作務衣 万葉

季節の楽しみがまた増えた。
実りの秋は彩りの季節。自然の絵筆が描く色彩が目に嬉しい。と、くれば作務衣も負けて入られない。鮮やかな彩りを得て、四季の悦びを共にする…。
刺子織の新色が遂に登場。
この時期になると注文殺到、人気の刺子織作務衣に、満を持しての新作が登場しました。きっかけは、大勢の刺子ファン、特に銀鼠ファンの方々からの声でした。「銀鼠は実にいい。そのうえで贅沢な意見だが、次は、より肉厚でざっくり感の増した、さらに彩りも鮮やかで印象的な第2弾を創って欲しい」。
非常に難しいリクエストでしたが、そんな会員の方々の声が、傑作と言われる作務衣をどれほど生み出したことか…。その成果は、一度まとえばたちまちお分かりいただけると自負しております。

土布作務衣 ぼかしと茶

中国農村の伝統手紡ぎと手織りで創り上げる「土布」と手染めの「香雲染」
広々とした綿花畑の続く中国の大地に点在する農村で、古代からの技法を受け継ぎ、今も手紡ぎ、手織りをしている人々がいます。
『土布』は、この人たちが今に伝える、中国悠久の歴史と大地が育んだ大らかさと素朴さを兼ね備えた、自然の風合い豊かな布地。その木綿本来の手触りと味わいは、現在の日本では残念ながらなかなか手にすることの出来ない希少価値をたたえています。
類い稀な染めの妙との出逢い。
その『土布』を素材に、これまた希少価値の高い中国伝統の『香雲染』にて染め上げたもので、他では決して目にできない逸品です。『香雲染』は、まず『土布』を中国の高山に自生する莨宕(ろうとう)と言う植物の根の液に浸します。それを太陽にさらすことを数十回も繰り返し、途中で莨宕の液で煮立て色を深めます。さらに濃い彩りを得る際には鉄分と塩分を多く含んだ泥を塗りながら色を深めつつ染め上げていくのです。そこから生まれた、強く素朴な生地とえも言われぬ深い彩りは、まさに大地と自然の恵みそのもので、効能メリットもめじろおし。
和服業界でも注目されている独特の個性をご覧あれ。
繊維が強いため、長期間の着用が可能。防虫効果により虫食らいの心配要らず。水洗いだけで汗の臭いなどが落とせ、アレルギー性の皮膚炎の方がお召しになれば、抗アレルギーの免疫機能を高めることも可能…とまさに多彩。
二つの作品ともに手染め手織りのため、一着ずつの彩りや味わいが微妙に違います。いわばそれは世界にひとつ、あなただけのオリジナルを手にすること。自然の魅力満載の逸品で、豊かな季節の自然の中へお踏み出し下さい。