庭に面した障子は取り外されて簾がかけてあります。部屋の襖も開け放たれていて、家の奥までが透かして見通せます。
ひっそりと冷たく涼気が流れてくるようなたたずまい――昔から、むし厚い日本の夏をなんとか過ごすためにさまざまな工夫が重ねられてきました。
この簾の発想などは、住む人はもちろん、見る人をしても涼感を与えるという細やかな日本人の美的感覚から生まれたものといえましょう。
優雅な涼味をかもし出す、代表的な夏の装い――
装いとて同じことです。“夏姿”という言葉があるように、夏の衣服は昔から特別に扱われてきました。
麻布、縮み、芭蕉布――など独特の涼感を持つ織物が考えられたのもそのため。中でも優雅な涼味という点では“紗(しゃ)”や“絽(りょ)”という透明感のある織物が出色。初夏から夏にかけての装いとして憧れに似た人気を誇っています。
年配の方ならご存知だと思いますが、戦前にはこの紗や絽の装いはよく見られました。
強い陽射しの中を、透明感のある着物をキリッと着こなして行く女性の姿は、子供ごころにも鮮烈なイメージを植えつけたものでした。
また、絽が盛んに着られた江戸時代の浮世絵には、夏姿としてこの軽やかで透けた薄物に身を包んだ女性が多く登場します。絵師たちの目にも、この装いが何とも鮮やかで、そのくせ気品に溢れたものと写ったようです。