「段染」と「紋型織」の提案に興奮は高まる。
それからしばらくして入った一報に、スタッフはざわめきたちました。
「あのサ、今度の作務衣、段染めの糸を使って紋型織りで仕立ててみたんだけど」
“段染め”とは藍を用いてかせ糸を薄い部分と濃い部分に染め上げる手法。濃淡の出し具合が非常に難しく、仕上がりの織りを頭の中でしっかりと想定しなければできないという、まさに経験豊かな職人中の職人にこそ可能な染め。
しかも、その糸を、明治初期にヨーロッパより伝わり、平織、綾織、飛綾織の三つの織りの各々の良さがひとつの妙を生み出し。実に味わい深い表情を醸し出すといわれる”紋型織り”で仕立てるというのですから、スタッフの興奮も当然至極。
ところが、騒然とするスタッフに秋元さんは追い討ちをかけるようにこう言ったのです。
「それからサ、もう一着、正絹を藍で染めたモノを創ろうと思うんだ」。
絹に藍を用いる――初の試みが匠の手で実現。
しかも、「正絹を藍で染めるだけではつまらない。他の染液を加えて風情のある色を出したいんだ」とのこと。
その微妙な彩りを創るために、染めの第一段階で刈安を加え正絹を黄に染め、その上に藍を重ねて染め上げる独特の手法を採るそうで、名付けて”二藍(ふたあい)”。染め上がれば、青とも緑ともつかぬ、えも言われぬ独特の彩りになるとのこと。
秋元さんが採用しようという手法は、どれも初の試み。そしてついに完成した作務衣は、匠の集大成にふさわしい、貴重価値の高い逸品となりました。
それを今回、当カタログで紹介できることに、伝統芸術を提供し続ける私どもとして深い誇りを覚えると共に、偉大な金字塔を築いた秋元さんに惜しみない拍手を贈りたいと思います。