絹もいいけど、綿でやりたい。それもとびきりの素材で…。
タテ糸を正藍染の雨絣にて染め上げ、ヨコ糸を手紡ぎの糸と藍糸とを撚り合わせて織った紬織物――これが栄一翁をはじめ武州の豪農たちが好んで愛用した<青淵紬>である。
「絹でやるのかい?作務衣開発10周年記念なら、僕は綿でやりたいな。それも、とびきりの綿でね…」と石塚久雄さんからの提案。全員異論なし。10年もチームを組んでいるとこのへんのことはよく分かっている。
というわけで素材は<トルファン綿>を使うこととなった。
トルファンとは、中国新疆ウイグル地区シルクロード天山南路の東北部の地名である。この地で得られる綿糸は、毛足が非常に長く、シルクに近い艶があり、天然綿の宝石といわれている。その性質を利用して、超極細糸が紡がれる。しかし、生産量は極く微量。その意味からも、絹に勝るとも劣らぬ素材といえるだろう。
トルファンを染められる――と、藍染師秋元一二さんがワクワクしている。石塚さんの頭の中は、もう紬織りのことでいっぱい。創織作家としての好奇心がムクムクと頭をもたげてきている。渓水さんはカメに付きっきり。
ここまでくればもう大丈夫。余計な口出しはしない方がいい。今回の作務衣づくりのコンセプトは十分に伝わっているから、後は彼らの技の冴えを見せてもらうだけである。