織りで出した“表情”に、春の色をのせる――春の新作は奥が深い!
さっそく、このお二人に春の新作について話をうかがってみることにします。面倒だなぁ…といいながら、お二人とも目が笑っています。
「昨年春の『卯月』は織りで色を創ったんだが、今回は織りで“表情”を創ろうと思ったんです」と石塚さん。この発送から新作づくりの苦労が始まったといいます。そして、思案の末に取り組んだのが三絲織…
「そう、やっと綿と麻と絹を全部使ってやろうと決意したんだよ」
話を聞いた秋元さんがぶっ飛んだといいます。
「絹と麻の組み合わせだってみんな敬遠するのに綿まで混ぜようってんだから、そりゃ驚くわな。まあ、史上初といってもいい試みだろうな。効率も悪いし、どんなことになるのか心配したよ、ホントに!」
素材に負けぬ職人芸、その上、雨まで降らす…
それでもやってのけるのが武州織物「石織」三代目石塚久雄のど根性。
「絶対に面白いものができると思った。それからは夢中。いろんな糸の組み合わせで織りまくったね。その結果、ヨコ糸は麻だけ。タテ糸に三素材を組み合わせることにしたんです」
と平然。綿糸と絹糸の組み合わせに、さらに味を出すための交撚糸(麻と綿をより合わせた糸)が加わります。さらに、さらに…。
「アート感覚で、先染めの藍染糸をまぶしていくんだ。ちょうど布地に雨が降っているようにね…」
と石塚さんの口調が熱くなってきます。ところで色はどうなるんですか?
「織りで表情を出すから、後染めがいい。織り上がった布地に色を付けるんだ。これがまた実にいい…」
秋元さんも、織り上がった布地を見て納得したという。染め職人が認めるだけの出来栄えだったといいます。
彩りは、植物染料に染めの堅牢度を高めるための科学染料による万葉百彩染め。茜(あかね)、刈安(かりやす)、藍玉などを使った萌えるような春の色三彩。
やっぱり春はこのコンビ、高感度作務衣の誕生です。
春の色をした三絲織の作務衣に藍染の雨が降る…いいですね。
「春雨じゃ濡れていこう…。ちょっと古いかな。でもね、こんな作務衣、後にも先にもまず手に入らないよ。それくらい珍しく画期的。お宅でなきゃこの作務衣は売れないな」
と秋元さんからのおほめの言葉。やっぱりこの名コンビ、やることが違います。
何だかワクワクしてしまう――今年の春の新作です。