四十余年の経験と柔軟な感覚が生み出した刺子織の作務衣――燗熟、七代目の技(3)

「今の世じゃ、刺子は防寒でも野良着でもない。だから薄く品よく…」
「手差しじゃ大変でしょ。一着数十万円になってしまう。だから織る。しかし、刺子も野良着から出世したもんだね」
この感覚がなんとも新しい。伝統的な技法や情緒は百も承知の上で、新しい広がりを求めるこの余裕。敢えて“燗熟”と言わせてもらおう。
一見無地に見える刺子織が好きだという。しかし、人には好みがあるから…と白糸を差した柄をさらに肩や衿に加えた作務衣をつくる。3パターンもあれば好みで選べるだろう――という心くばり。決して一人よがりに陥らない。
刺子織でありながらゴワゴワしない。「薄く品よく仕上げる。だって今の世じゃ、刺子は防寒でも野良着でもないんだから…」。このバランスこそ、“技”と呼ぶにふさわしい。
こんな七代目の手になる新作「刺子織作務衣」がいよいよ登場。作務衣の世界にまた新しい輝きが加わるというわけだ。
「一枚でも着てもらえれば、私は嬉しいね」。見送りながらボソッとつぶやく。えっ?と見返すと、目を伏せる。七代目――いい人に会えた。
七代目 辻村辰利
この道、四十一年。代を継いで二十年、現在61歳である。飽きず力まず染めと織りの世界に遊ぶ――という生き方が、独特の味を出している。
カメから引き上げられた白い糸は緑色。空気にふれると徐々に藍の色に変化していく。これが空気酸化。十数回繰り返して色の具合を仕上げていく。

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