袖を通せば、静かなる波の成せる技か、まさに明鏡止水。心穏やかに春がゆく。
春の海・・・穏やかな陽光を受けて、静かにさざめく波を見つめていると、いつのまにか時を忘れ、心身が解きほぐれていくのが分かる。その情景と心の開放感を、作務衣で表現できないか・・・。そんな心風景から生まれたのが、「波筬織(なみおさおり)作務衣潮騒」です。
波のごとき美しさを素材と織りで醸し出す・・・またまた難題を抱えた生産現場でしたが、生地を織上げる織機の心臓部ともいえる筬(おさ)と呼ばれる機具に工夫を重ねることにより、春の海のイメージを見事に再現することに成功しました。織りの豊かさを存分に楽しめる・・・職人一同も推奨の、自信あふれる一着です。
職人泣かせのこだわりから生まれた波筬織作務衣。
通常の織物は、縦糸がお互いに平行で、横糸が直角に交差して布を織り上げていくという旧知の手法のため、仕上がりの安心感はありますが、作務衣の専門館である当会として物足りない・・・。
だからこそ、新たな織り創りに飽くなき挑戦を重ねて参りました。ましてや今回は、皆さま待望の春の新作のひとつ・・・凡庸なモノではご紹介するにも及び腰になるというもの。
そこで、前述いたしましたように、“春の海”のごとき表情を持った稀有な作務衣を創ろうと、生地を織るための織機の構造から見直すという職人泣かせの展開となった次第でございます。
次回は、製作の詳細に迫っていきます。