洗い刺子作務衣 藍矢倉(あらいさしこさむえ あいやぐら)

渋い男の主張、これぞ作務衣!刺子織に正藍染、火消しの粋の妙。
“火事と喧嘩は江戸の華”と云われたように、火事場に雄雄しく舞う火消し半纏の姿は大勢の人を魅了しました。
その、火にも水にも耐え、役目をまっとうするあの力と粋を作務衣に活かしたい…。その想いから生まれたのが、<洗い刺子織作務衣 藍矢倉>です。
綿100%の無垢な素材を、あの武州正藍染で染め上げた味わい深い彩り。そして、素朴な中にも適度な装飾性を生み出す刺子織による、頼りがいのある厚手の丈夫な生地…。
試作品は、「これぞ作務衣!」と叫びたくなるような、古き佳き和の装いの原点を極めたものになりました。
しかし、何かが足りない。あの火消し半纏の粋を感じさせる何かが…。しばし試作品を眺めていたスタッフが、こう呟きました。
「徹底的に洗いをかけてみよう…」と。
そうです、足りなかったのは、数々の修羅場をくぐり抜けた火消し半纏が、その生地の表情に刻み込み、渋く漂わせていた老練の味わいだったのです。
若さだけで輝いていた青年が、人生の修羅場をいくつも越え、いつしかその顔に男の主張を漂わせるような、えもいわれぬ深さを新作にも宿したい…。
そこから作務衣に仕立ててから洗う製品洗いの作業が始まりました。それは、これぞ!と思えるような程よい色落ちを見極める神経を遣う作業…。
そして全体的に8センチ縮んだ段階で洗いは終了しました。
この作業段階を加えたことにより、生地がほどよくこなれ、最初から柔らかな着心地も愉しめるという効果も得られ、その好結果には云うことなし。
この冬は、火消しの華で、いなせに街を闊歩してみてはいかがですか。

本藍染 ループ絣作務衣 遠州と羽織(ほんあいぞめ るーぷかすりさむえ えんしゅうとはおり)

若い感性が生み出した「ループ絣」の魅力を存分に
寒い時期こそ最も染めがうまくゆくとの七代目の経験を受け継ぎ、新作は秋から冬にかけて糸を染めたもので、本藍染の出来栄えはまさに完璧。
その糸を“七代目を追い越すための独自の工夫”として八代目が創案した「ループ絣」により織り上げた生地は実に見事な印象を与えてくれます。
タテ糸は、太目の20番手の2本の糸を撚り合せた双糸を、糸に適度なムラを出す“糸くくり”と呼ばれる染め手法で仕上げた絣糸を使用(ちなみにYシャツに使われているのは30番手。20番手がいかに太いかお分かりいただけると思います)。
そしてヨコ糸は、これも太目の10番手ムラ糸を配し、このタテ・ヨコ双方の太い糸で、よりざっくりとした質感を持たせるために、生地に凹凸の変化ある表情ができる綾織りに仕立てました。
さらにそこに2,5番手という特太の糸に撚りを掛けた特殊な“ループ糸”で“手刺子”の風合いを醸し出すという凝りようは、八代目の感性ならでは。
ソフトで、しかも今人気の手刺子風のざっくりとした感触の仕上がりの素晴らしさは、写真でもご納得いただけるはず。
「まだまだひよっこだと思っていたが、うん、なかなかやるもんだ…」
テレ気味につぶやきながらも、一瞬真剣な光が走った七代目の眼が、新作の価値を十分に語っておりました。

本藍染 ループ絣作務衣 遠州と羽織(ほんあいぞめ るーぷかすりさむえ えんしゅうとはおり)

JR浜松駅から車で揺られること30分あまり。当会が作務衣創りを委ねる優れた染織の里のひとつ、“遠州”「西ケ崎」の地が見えてくる。かの地で染織りの老舗として代を重ねる辻村染織の七代目当主。四十余年の経験と柔軟な感覚で次々と銘作の誉れも高い作務衣を世に送り出し続ける職人、辻村辰利氏は云う。
「藍は生き物。寒く空気が乾燥した時期こそ、最も染付けがうまく仕上がる」
その経験から編み出された知恵は、ご子息でもある八代目、辻村啓介氏へしっかりと受け継がれ、そして今、その若い感性のすべてを込めた新たな藍染の傑作が目の前に…。
独自の藍染の境地を拓くべき研鑽の集大成
七代目のもとで長年の間、藍染修行を存分に積んだ八代目。七代目に言わせると“超ガンコ者でこだわりを持つ性格”だとか。
「いまはまだ藍染ではオヤジにかなわないけど、いつかは自分なりの新しいモノをと思って、ひとりでいろいろ研究してます」
謙虚ながらも満々たる自信が伺えるその言葉の通り、独自の工夫を凝らした気銘の新作を創り上げてくれました。

自然の賜物、藍染。(5)

日本中を駆け巡った藍染を求める旅の結果…
そのため東奔西走、足と時間をかけて、一徹に昔ながらの仕事を守っている藍染の里を必死に探し求めました。
その結果、幸運にも、谷川連峰の峻烈な清水を利根川にいただく埼玉県北部の「武州」。
四国三郎の異名を持つ吉野川を擁する徳島の「阿波」。
そして“遠州”の通り名で知られる織りと染めの重鎮、静岡の「西ケ崎」に出会うことができたのです。
歴史と伝統、豊かな自然と清流に囲まれた環境、優れた腕を持つ頑固な職人たち…それはまさに私どもが求めた理想の染めの里でした。
それからの幾度もの交渉、作務衣を論じ、話し合い、時には夜を徹して飲み明かし、伝統の装いと染めについて語り合った熱い日々は、今でもスタッフの胸の中にふつふつと蘇ります。
本物の作務衣を創りたいという心意気は、本物の藍染をいつまでも残したいという職人魂と響きあい、まさに以心伝心。その和が、藍染による当会の数々の銘作作務衣を生み出すことに至っていくのです。

自然の賜物、藍染。(4)

科学染料ではなく、本物には本物の染めを…
しかしながら、その昔は隆盛を極めていた藍染めも、時が流れるに従い科学染料が開発されるに及んで、手間隙がかかり経済効果も悪いという理由で現在ではその技法を守る染めの里も数をすっかり減らし、特に腕のいい職人は、それこそ指で折れるほどになってしまっていました。
とはいえ、本物の作務衣創りを志向する当会においては、真の藍染を欠かすことは絶対にできません。
なぜなら、科学染料による色と藍染を比べたとき、それはまさに似て非なるもの。天と地ほどの違いを出してしまうからなのです。
前述した如く、本物の作務衣創りに昔ながらの手法をかたくなに守る藍染が必要だと申し上げたのは、このような理由によるものでした。
それもそのはず、その昔、作務衣が生まれた頃には、科学染料など存在しなかったのですから…。

自然の賜物、藍染。(3)

伝統様式の装いだからこそ藍の持つ魅力が生きる
“かせ糸”の漬け込みの回数による微妙な色合いの調整、そして川などの豊かな清流を利用して行われる入念な洗いなど…藍染を行う過程は、むろん全てが職人による丹念で手間暇のかかる手作業…。
彼らの鍛え抜かれた感覚と技術が、藍という自然が生んだ原石を至宝の彩りへと高めてゆくのです。
そんな生きている色だからこそ、藍は見る人や着る人を問わず、しんしんと心に滲みてきます。
時を越えて沢山の人々の間で、変わることのない普遍の彩りとして愛され続けてきたのです。
そのためでしょうか。大らかな自然の恵みから生まれた天然色、洗えば洗うほどに豊かになる味わいを持つ藍が、僧侶が作務(雑念をなくすための労働一般のことで、大切な修行とされている)を行うための着衣である作務衣の基本的な彩りとして用いられたのは、悠久の時が流れても変わることのない、藍の持つ普遍性や特性から考えても、至極当然のことであったのかもしれません。
思い浮かべてみて下さい。藍染の綿の作務衣に袖を通した僧侶が、杜に囲まれた薄霧のかかる早朝の庭を静かに掃き清める姿を…。
自然の風合いをそこはかとなく醸し出す藍の彩りが、一幅の絵のような、そんな情緒あふれる風景に実に良く似合う…。
だからこそ、“古き佳き装いである作務衣を現代に復活させる”という趣旨を掲げた当会が発足するにあたり、その成否は、如何に昔ながらの手法をかたくなに守る、優れた藍染の里と職人を見つけられるかにかかっていたと云っても過言ではありません。

自然の賜物、藍染。(2)

瞬間的に緑から青へ…その変身は藍の描くドラマ
藍染の原料となる蓼藍はタデ科の一年草。降り注ぐ陽光、大地を濡らす慈雨、畑を渡り行く爽やかな風…大自然の中で育つ藍はまさに天然の宝物。
現在のような染めの技法の発祥はさだかではありませんが、正倉院や法隆寺の御物の中には見事な藍染の布が残っており、3~4世紀に藍草(蓼藍)が渡来した際に、染めの技法も一緒に伝わったのではないかと云われます。
染めの過程に見せる藍の姿は神秘そのものです。蓼藍の葉を発酵させて固めた藍玉を、カメの中でさらに自然発酵させると茶緑の樹液が生まれます。
この液に綿を紡いで作った“かせ糸”を漬け込み引き上げると、空気に触れた途端、緑色の糸が鮮やかな藍色にドラマチックに変身するのです。
その劇的な瞬間は“空気酸化”と呼ばれ、藍染の魅力をさらに神秘的なものにしています。
藍の濃淡を決めるのは、この漬け込みの回数。濃い藍だと10~15回ほどで、その色に応じて、かめのぞき、藍白(あいじろ)、浅葱(あさぎ)、藍、紺(こん)と呼ばれます。

自然の賜物、藍染。(1)

いにしえから愛され続ける素晴らしき染め手法
藍。その言葉にそこはかとなく趣と深い味わいを受けるのはなぜでしょう。
中国では紀元前1世紀の頃、すでに「礼記」という書物の中に藍という言葉が登場するほど歴史は古く、現存する最古の藍染を施した布はエジプトのピラミッドから発見された4~5千年前のものと云われており、藍染めが太古から人々の間で用いられていたことをしのぶことができます。
日本でも千年以上の歴史を持ち、かの「源氏物語絵巻」にも登場しており、「青はこれを藍に取りて、藍よりも青し」という、中国の筍氏の流れを受けて生まれた“出藍の誉れ”ということわざひとつをとってみても、藍に対する人々の深い畏敬の念が感じられます。
また藍染の布は虫が嫌う、殺菌の効能があると伝えられ、江戸時代には広く庶民に広まるようになりました。
藍は、人の心までも染め上げてしまう“時代を超えた彩り”といえましょう。
ちなみにヨーロッパでは、明治8年に政府の招きで来日した英国の科学者アトキンソンが「ジャパンブルー」と命名して以来この名で呼ばれており、アメリカでは安藤広重の「東海道五十三次」に描かれた鮮やかな空や水の藍色から「ヒロシゲブルー」と名づけられ、現在では日本の代表的な色として世界に認められるまでになっています。

正絹 綿入れはんてん(しょうけん わたいれはんてん)

暖かさもさることながら、正絹をさらりと普段に着る。この満足感がなんとも言えない。
ちょっと小寒い時、もうひとつぬくもりが欲しい時にひょいとはおれる気軽さ。どんな服装にも合わせられる上に、そのまま外出もOKという便利もの。
これまで、刺子や綿素材の綿入れはんてんをご紹介して参りましたが、遂にと言うべきか、やはりと申し上げるべきか“絹”のご要望が…。
つまり、はんてんにも目的別、お好み別の作品が必要になったということなのです。
素材は絹100%。綿入れのキルティング加工付きです。