絹三昧(きぬざんまい)(2)

意外な事実――絹は非常に健康的な繊維!
桑畑に降りそそぐ太陽エネルギーを一杯に吸収した桑の葉を、蚕はすさまじい食欲で食べ尽くします。そして、食べた桑の葉を次々と絹物質に変えていくのです。
普通、綿や羊毛などの繊維は細胞により構成されているのですが、繭糸は細胞の分泌物である絹が、糸として吐き出されることにより繊維化されます。
このように液状のものから糸となる現象は大変に不思議なことで他に類を見ません。この絹の持つワクワクするような“神秘性”もまた、絹の人気の秘密かもしれません。
ところで、繭糸の組成は、その90%以上が人体の皮膚に近いタンパク質で出来ているということをご存知でしたか。
このため、人体にとっては非常に健康的な繊維なのです。化学繊維などで見られる肌のトラブルなどが、絹ではまず起こらないのもこのためなのです。
絹の肌ざわり、着心地の良さが言われる裏には、こんな秘密があったということ。自然の神秘的な営みから生まれた絹が、自然主義の復活と共に見直されてきたのもうなずける話です。
光沢や風合いも、やはり布地の王者!
絹の魅力について少しお話いたしましょう。
まず、何と言っても光沢ですね。絹は、真珠や象牙と並んで優雅な光沢の代表といわれています。実に複雑な微細構造がその理由。さらに、大小さまざまな三角断面のプリズム効果が、その光沢をさらに美しいものとしています。
科学繊維の中には、一見、絹の光沢に似たものがありますが、違いは歴然。似て非なるものです。
次に風合い。風合いとは、光沢や触感を総合した感覚的な性質のこと。つまり、目や手触りを通した官能的な品質評価ということです。
絹のぬめり(弾力のある柔らかさ)や、こし(弾性のある充実感)は抜群。また、しなやかさから生まれるドレープ性の美しさも筆舌に尽くしがたいものがあります。その他の要素も含めて、やはり絹は繊維の王者――これに優るものはまず考えられません。
お金に換えられない“絹を着る”という価値観!
絹が見直されている――と申しましたが、衣料用繊維の中に占める絹の消費量は、わが国ではまだ1%にしか過ぎません。供給の問題もあって、まだまだ希少性の高い素材なのです。
それだけに“絹を着る”という感覚は、それ自体がくすぐったいような誇りであり、感性の歓び。お金に換えられない価値観だと言えましょう。

絹三昧(きぬざんまい)(1)

このところ天然繊維が見直されてきています。中でも、“絹”への注目がとても高いようです。長い歴史を持ち、いつの時代においても別格の扱いを受けてきたこの繊維は、また自然の神秘的とさえ言える営みから生まれるもの。それだけに、合理主義の象徴とも言える化学繊維からは得られぬ精神的な何かに多くの人が気づいた結果といえましょう。そんな“絹”の話を少しの間お聞き下さい。
自然と歴史が創り上げた絹の世界
はるかに遠く、今から五千年もの昔。
人類最古の文明が生まれた頃、中国に伝説的な名君と崇められた黄帝という王がいました。ある日、この黄帝の妃が繭を手にし、誤ってこれを茶湯の中に落としてしまいます。慌てて箸でこれを拾い上げようとしますが、手繰っても手繰っても純白の糸が際限なく箸に巻きついてくるだけでした。
もうお分かりでしょう。これが繭から生まれたいわゆる“絹”の始まりなのです。
なんでも事の始まりはこんなもの。実際にこの妃にしても、その後、この絹が世界中に行き渡り最高級布地として高い評価を受けるなどとは想像もしなかったことでしょう。
しかし、あの絹の発見が壮大な浪漫話などではなく、人間のちょっとしたドジから生じたとは、実に人間的で愉快な話です。
憧れに近い感情も受け継がれてきた。
こうやって発見された絹は、その後、世界中へ急速に広まってゆきます。そしてどの国でもいつの時代でも、大変に貴重なものとして扱われてきました。絹がお金の換わりに使われたほどです。それだけに、時の権力者たちがほとんど独占してしまい、後世まで絹は高嶺の花というイメージが定着してしまいます。
日本への養蚕が伝わったのは西方諸国よりも早く、弥生前期(紀元前二世紀)といわれます。養蚕の黄金時代は大化の改新の頃から十世紀にかけてでした。しかし、ここでも、桑を植え、蚕を育てたのは庶民でしたが、一片の私有も許されず上納を強いられてきたようです。
その後も営々と絹は歴史と共に歩み続けてきました。織り技法の発達により、絹の特性はさらに磨きがかけられ、そのイメージは輪をかけて絢爛たるものとなっていったのです。
私たちが、今でも“絹”に対して憧れに近い感情を持つのも、こんな歴史的な背景があるからではないでしょうか。

スエード作務衣(すえーどさむえ)

スマートな作務衣の誕生です。
スエードとは、羊皮などの柔らかい感触を持つ裏皮(バックスキン)のこと。靴やバッグ、ジャケット、ベストなどに使用される素材ですから、お聞きおよびの方も多いことと思われます。
ただし、実際に動物の裏皮を使うと、とても手が出ないような価格になるため、現在では素材を起毛して裏皮のような感触や風合いを出す「スエード仕上げ」によるものが主流となっています。年頭に発表して話題を集めたご紹介の「スエード作務衣」も同様の仕上げ加工によるもの。
通常ですと綿素材を使用しますが、絹に似た光沢を出すためにポリエステル素材を使用。さらに特殊な剪毛法により、独特の風合いをもたせています。
また、スエードならではの柔らかい感触を強調するためニット織り――と、当会ならではのオリジナリティにあふれたスエード仕上げの作務衣が完成しました。

オリエント作務衣(おりえんとさむえ)

仏教ゆかりの地ですべてが創られた、オリエンタルな一着。
古き佳き装いを現代に蘇らせる――という当会では、温故知新、装いの進化をも追及し、作務衣のある暮らしの中に新しい意義を打ち立てるというテーマも同時に掲げてきました。
その追求の視点は和の世界はもちろん、良いものは和洋を問わずどんどん採り入れるという柔軟かつ進歩的な志向のもと、数々のユニークな作務衣を世に送り出してまいりました。
そしてこのたび、当会が着目したのは聖なる地、インドが生んだ染と生地…。
自然の恵み豊かな草木染めと科学染料を巧みに交ぜ合わせた独特の染と、素朴な風合いで人気の高いインド綿の融合は、これまでにも数多く外国の生地を見開きした目利きを自負する当会のスタッフも一目惚れの状態…。
しかも、インドといえば、仏教の故郷としても名高い地。作務衣の普及の原点である僧侶たちのことを考え合わせると、当会が偶然にも新作の開発にインドの染と生地に注目したのは、何か大きな輪廻を感じるというもの。
生地は、手織に近いざくっとした味のある厚手。これは、半自動織り機で織り上げたゆえん。しかも厚手でありながら、透かしが入っているところが憎いこだわり。さらに肌に馴染む風合いを重ねるために、一度ウォッシュアウトするという手の込みよう。染も織も縫製も、すべてインドで行った、まさにオリエンタルな作務衣の誕生です。
実はこの新作、モニター調査でも大変な人気を集めた品。眼の肥えた作務衣愛用家の方々をうならせるに十分な作務衣だと改めて自負するに至ったのですが、インドの職人の手によるため如何せん数が創れず、100着限りの限定販売と相成りました。

コチニール染作務衣 ボヘミアン<自由人>(2)

100%手織の綿絹布地がインドから…
タイミングというものはあるのですね。コチニールへの挑戦が決まった同じ頃、今度はインド経由で魅惑的な布地が届けられたのです。
これがインドの「綿絹(めんきぬ)」。文字通り、綿と絹とが交織されていて何ともいえぬ風合い。しかも、それが100%の手織なのです。インドの機織職人がコツコツと手織した布地の表情は、機械織りでは決して得られぬもの。綿と絹との素材の違いも手伝って、糸の不揃いが嬉しい素敵な布地です。
こんな素晴らしいキャンバスに、コチニールと藍で彩りをつける――職人にとって、それはまさに至福の時であったに違いありません。赤が鮮やかすぎるため、藍との比率が微妙。試し染めを重ねた結果、1対9で染め上げました。
毎日、会員の皆様にお届けする作務衣づくりでは、精緻なまでのいわゆる職人芸を発揮する職人たちが、その仕事を心から楽しんで成した一着。この作務衣からは、新しい翼を持った「心の書斎」の香りがただよいます。

コチニール染作務衣 ボヘミアン<自由人>(1)

作り手の嬉しさやときめきが、着る人の心をさらに自由にする――
「コチニールがまとめて手に入ったよ、どうする?」メキシコから一本の電話が当会の空気を一変させました。電話を受けたスタッフは、目をキラキラさせて「赤染めが出来るそうです!」と叫び出す始末です。
確かに、藍染にはじまり、草木染、茶葉染、樹木染…とステップを踏んできた当会にとって「赤染め」とも「虫染め」とも言われるこのコチニール染めは、挑まねばならぬものに違いありません。
まとまった入手が難しい動物染料
コチニールとは、ペルー、メキシコ原産のウチワサボテンに付く介殻虫から採った動物染料のひとつ。色素の主成分はカーミン酸という赤色素で、古くから緋(赤)染に用いられていました。ただいかんせん、動物染料ですから、大量の供給は難しく、科学染料が発達した現在では、特に日本ではほとんど見かけることがなくなっています。
しかし、そのコチニールがまとまって入手できる…と言われたら、逃げるわけにもいきません。急遽、ゴー指令。コチニール染へのチャレンジが始まりました。

ニットコール天作務衣 秋鼠(にっとこーるてんさむえ あきねず)

軽くて暖か、ソフトな肌触りがたまらない。当会初、ニットを採用。
秋とくればコール天。発表と同時に絶賛集中のシリーズですが、今年の秋はこれまでにまだ手をつけていない素材に挑もうではないか――。
そんなスタッフが注目したのが、洋装における秋冬の暖かな素材として馴染み深いニット。作務衣にニットとはこれまたユニーク、作務衣の専門館としてはやりがいがあると、意気揚々と開発を進めてまいりました。
そのテーマは「より軽やかに、さらに着心地よく」
重ね着太りが増える季節の中にあって、もっと気軽に颯爽と、しかもソフトに作務衣を着こなしていただきたい。そんな思いの中から元気な産声を上げたのが、新作「ニットコール天作務衣」です。
着心地も機能性も兼備、装いの季節にもってこい。
当会初のニット素材を、お洒落なコール天仕立てにした意匠は、装いの季節に相応しく、彩りもなかなかのもの。
特筆したいのは、身体にしっくりと馴染むその軽さと、ソフトな感触。肩が凝らず、思わず着ていることを忘れそうなほど。また、適度な伸縮性もありますから、長時間の読書や趣味に勤しむのにはもってこいです。
「だが、ニットというからには、毛玉ができやすいのではないか…」そんなご心配をお持ちになるのは当然のことですが、何卒ご安心を。それは開発段階でスタッフからも出た疑問。
そこで今回、ニット素材を用いるにあたり、捻じれを防ぐピリング性に富んだ大手メーカーの糸を採用することによって、毛玉の心配を解消しました。その上、ご家庭で丸洗いもできるという利便・機能性も、しっかりと重視しています。
部屋着として趣味にいそしむもよし、戸外で季節の趣を楽しむも、またよしです。

コール天作務衣 生成(こーるてんさむえ きなり)

雑念のない無垢な白。これを着こなせばお洒落の達人。
畝の変化が醸し出す色合いの微妙な彩りと、お洒落心をくすぐる意匠で大人気のコール天作務衣。新作は、何とも潔く清々しい白です。
実はこれ、作務衣をユニフォームにしてみたいという外食店主の声をヒントに作った一着。とはいえ白といえば簡単そうでなかなか着こなせない、いわばお洒落の上級者好みの色。しかもセンス豊かなコール天とくれば、着こなしがいこの上なし。
この作務衣を着て闊歩する方は、中々のつわものと羨望を集めるに違いありません。

コール天作務衣 緑粋と羽織(こーるてんさむえ りょくすいとはおり)

さらに、素材と色にこだわって…
大変なご好評を頂いた「コール天作務衣・群青」。次はぜひ綿素材でそれ以上のコール天作務衣を作りたいと、コール天好きのスタッフから声が上がりました。
作務衣にコール天素材は大変合う、だからこそ作務衣の基本である綿素材のコール天で作りたい、と言うのです。こだわり屋の彼のこと、ただ綿素材というだけでは納得するはずはありませんでした。
シルクのような艶と深みのある色
綿ならではの特性、丈夫で扱いやすく、身体に馴染み、また乾燥した季節の厄介者・静電気が起こりにくいことはもちろん、その上シルクを思わせるような艶と深みのある色が欲しい…というのです。
素材探しに駆け回り、やっと巡り合ったのが、ご覧の作務衣です。苦労の甲斐あって、その艶はまさにシルク。色も何ともいえぬ深みのあるグリーンを出すことができました。

コールテン作務衣 群青と羽織(こーるてんさむえ ぐんじょうとはおり)

昔懐かしき響きを重ねて、「コール天作務衣」と名乗ります。
まず畝を目立たせない渋いコーデュロイ作務衣、次いで畝の太いタイプ(太コール)のコート、そしてついに、中コールにて毛羽立ちをはっきり見せた本格コーデュロイの登場。
これだけ新しく、鮮やかな作品が誕生しますと、何故か「古き佳き…」という言葉を記したくなるもの。前作「コーデュロイ作務衣」との識別を図る意味からも、昔懐かしい響きを持つ呼び名「コール天」を復活させたくなりました。
ひとつ、当会の趣味・道楽の成せるわざ…とお許し下さい。