樹の皮で染める――自然を纏う感覚が五体を走る。万葉百彩の旅、天竜へ。
藍の葉に始まり、草や花、そしてお茶の葉まで歩を進めた「伝統芸術を着る会」のライフワーク、万葉百彩の旅。
まだ、染めるべき素材は身近にありながら、天の声に導かれるように静岡県天竜市へ飛びました。その目的は、この地にて行われている樹木染めへの興味でした。
天竜は、奈良の吉野、三重の尾鷲と並び日本三大美林のひとつに挙げられるほど。特に、当地の杉林は昔から有名なところです。
県や市をあげて研究、開発した樹木染め!
この地において、静岡県科学技術振興財団が実施している“天竜杉染め”の評判は、以前から当会にも届いていましたが、時期尚早との考えで私どもも二の足を踏んでいたのです。
ところが、いちばん新しく送られてきた試作品を見てびっくり。飛躍的に高まった品質に当会の開発計画は一気に樹木染めへと進んだのです。
天竜へ来て、その成功の秘密が理解できました。それは、染色素材である杉が豊富なため、色のバラつきが少なく、色目の統一や安定が可能なこと。さらに産・学・官の共同研究により、繊維に染まりにくいという杉の欠点を、特殊な媒染剤により克服していることに尽きます。この媒染の方法は、俗にいう企業秘密。公開はできません。なにせ、長い期間にわたる試行錯誤の結果に得たノウハウですので、その点はご了承下さい。
工程は、まず杉の木の伐採から始まります。色目を統一して木を選び、丸太にしていくのです。