樹木への想い――
その陽なたで本を読んだ。
昼寝もした。
旅人はひとときの涼をとった。
木登りは少年を男にした。
少女は花飾りを編んだ。
ざわめく葉音に畏怖を感じた。
幹に名前を刻んだ。
爺さまは毎日拝んでいた。
昆虫や虫たちの宿屋だった。
風や雨や雪を許していた。
矢や弾丸がかすめたこともあった。
広く根をはり、びくともせず、歴史を見ていた。
愛しながら、敬いながら、人はそのふところに抱かれた。
その時代ごとに――樹木はオヤジだった。
樹木のある暮らし…それは誰もが望む自然回帰への本能です。
樹齢何百年という大樹を目の前にした時、私たちはとても懐かしい想いがします。同時に、なぜか身のすくむような感じもあわせ持つものです。海がヒトの胎内なら、森はヒトの父親だった――そんな気分におちいります。
ヒトと樹木の付き合いは、ヒトの歴史を物語ります。樹木が与えてくれる恩恵は、精神的なもの物理的なものを合わせると、それこそ計り知れないものがあります。
こんな樹木への思いを込めて、特集テーマは“ウッディ・ライフ”、つまり“樹木のある暮らし”です。
といっても、当会のテリトリーから考えても大層なことはご提案できるわけがありません。しかし、せめて「樹木への想い」をできるだけ形にしたいと思いました。
万葉百彩シリーズの一環として、今回は「樹木染め」。そうです、樹木による染め技法を皆さまにご披露したいというわけです。
心や目で感じる樹木の香り、樹木をまとう感覚から生じる自然回帰。新しい世界の広がりを、ぜひお試し下さい。