夏の装いの代表・麻

熱を発散し、汗を吸う。天然素材の力と魅力。
夏の装いの生地素材として、常に上位に挙がるのが”麻”。
自然の恵みそのままのシャリッとした爽快な肌触り、身体の動きなどに合わせて出来る適度なシワ具合など、その魅力は昔から今に至るまで、実に多くの人々をとりこにしています。
麻は、クワ科の一年草「麻」から製した繊維や織物です。茎の皮から繊維をとり、麻糸が作られます。麻は中央アジア原産で、熱帯から温帯にかけて栽培されています。また、種子からは油がとれるなど、生活に欠かせないものでした。
植物学上では五十種類もあると云われる麻ですが、装いの素材として用いられるのは限られており、「亜麻(あま)」と「苧麻(ちょま)」のみ。
そのうち、夏着尺の最高峰として賞賛される上布(じょうふ)に用いられるのは苧麻の方です。
麻の繊維にはストローのような通気口があり、身体の熱を発散させ、同時に汗を吸い取る動きをします。
さらりとした肌触りを創る天然のこの作用力が、高温多湿な日本の夏の衣料素材として最適ということもあり、麻はこの季節になると様々な意匠となり、人々を愉しませてくれます。
琵琶湖の自然と伝統を織りなす芸術品。七百年の歴史を誇る「近江上布」
「近江上布」の発祥は、鎌倉時代といいます。
琵琶湖を源とする愛知川(えちがわ)の豊かな水と湿度が、この地の麻織物を全国的に有名にしていきました。
特に、苧麻(ちょま)から手で紡いだ上質の糸を平織りにする麻織物――すなわち「上布(じょうふ)」の産地としては、現在でも越後や宮古などと並び五本の指に入ると云われています。
「上布」とは、麻を使った上等な平織りの生地のこと。いにしえから、上質な麻を使った素材は重宝され、高級素材の代名詞でもあり、太古の時代には生地のグレードで「上布~中布~下布」と大別されていました。
また、織り上がった反物に、職人の手によってしわ付け加工をする「しぼつけ」技法は、全国に名を馳せています。

雨がすり 麻絹作務衣

麻と絹の、ちょっと珍しい作務衣。
他ではまずお目にかかれないこの雨がすり。
素朴で少し粗い手触りを持つ麻素材と、優雅な光沢とサラリとした手触りで人気の絹素材を7対3の割合で仕上げた、ちょっと珍しい作務衣です。
いかにも春から夏にかけて着るにふさわしい素材組み合わせ。芥子色に、絣模様が、そぼ降る春の雨を想わせます。

麻混作務衣 藍白(あさこんさむえ あいじろ)

色、素材、形のすべてが涼しさを感じるものばかり。
湿気が多く暑苦しいといわれる日本の夏ですが、逆にこの季節を快適に過ごし、むしろ大いに楽しんでしまおうと考えた先人たちの知恵や工夫が現代にもさまざまなかたちで受け継がれています。
例えば夏の装い。
涼しさを感じる色は“白”か“明るい藍色”が双璧。素材は圧倒的に“麻”と“綿”。そして形は“ゆったり”と“少し崩して着る”――これが夏を快適に過ごすためのポイント。
つまり、このポイントを抑えた装いなら、たとえ実際の湿度や気温が高くても涼し気にさわやかに過ごすことができるということ。
確かに身のまわりの夏の服を見てみると何らかの形でこのポイントが生かされていることに気付きます。
縦糸は淡い藍染の綿、横糸は生成の麻
「藍白」は、これらのポイントをすべて備えています。
素材は麻と綿がそれぞれ50%ずつ。縦糸は淡い藍染の綿。横糸は生成の麻――これを交えて織り上げ、いかにも涼しげな<藍白>という彩りで仕上げています。
藍白とは、藍染工程の最も初期段階で得られるごく薄い藍染の色で、白に少し藍をかけて白さを押さえるという意味から“白殺し”というユーモラスな呼び方もあります。今でいう、オフ・ホワイトというわけです。
仕立てはゆったりとした作務衣仕立て。注目は両袖にしつらえた白いかがり糸。風通しの良さという機能面はもちろんですが、見た目にも涼感があり、さらにいかにも夏の装いらしい粋な情緒が楽しめます。
日本の夏の風情にしっくり溶け込み、新しささえ感じるこの作務衣。暑さを遊ぶような気持で…いかがでしょうか。

秋葉ちぢみ作務衣

受け継がれてきた伝統の技と、最先端の技術との出会いが昇華した、新たなる「ちぢみ」の息吹。
“ちぢみ”の新たなる作品を、15周年記念として創ろう――。
その課題のもとスタッフが東奔西走、ようやく巡り合えたのが、越後は板尾の名匠、島昇さんが手がける「秋葉ちぢみ」でした。
高温多湿な日本の夏を快適に過ごすため、先人たちの知恵が生み出したのがこの「ちぢみ」。肌との接触面を少なくすることで、涼感を得ることのできる技法です。
生まれた作品は、当会のちぢみの作務衣の新境地を拓いたとも云うべき会心の作。意匠、品質、価格ともに、堂々と自負できる一着と相成りました。

秋葉ちぢみの里を訪れて(2)

新たなる「ちぢみ」を求めて越後へ
そんなスタッフのもとへ朗報が届いたのが、今年の初め。
有名な「ちぢみ」の里である近江と双璧をなす新潟は小千谷の近くに、先取気鋭の名称がいると言うのです。
取るものもとりあえず、スタッフは新潟県は板尾の地に降り立ちました。
出迎えてくれた名匠の名は、島昇さん。
鼻息も荒いスタッフがぶつける作務衣に対する思い入れを柔和な笑みで聞きながら、島さんはやがて「分かりました。やってみましょう」と快諾の一言。
いにしえの伝統を現代に普及させたいという両者の思想が一体となった瞬間でした。
伝統と先進が生む「秋葉ちぢみ」とは?
小千谷は世に名高い「ちぢみ」の里のひとつですが、その品に勝るとも劣らないとの高い評価を近年得ているのが、板尾の「秋葉ちぢみ」。
ちなみにその名は上杉謙信由来の秋葉神社にちなんで名づけられた、歴史的に由緒あるものとか。
いやはや不勉強でしたと頭をかくスタッフに、島さんは「その伝統をより広めるために、私、コンピュータも使っているんですわ」と意外な一言。
伝統の技術を網羅した品だと、どうしても価格が割高になってしまう。
そこでコンピュータを駆使した最新技術を導入すれば、伝統の味わいと品質を損なわずに、しかも皆様の声にお応えした価格の品を生み出すことができる。
それにより、もっと大勢の人々に「秋葉ちぢみ」の素晴らしさを堪能してもらいたいのです、という島さんの話は、伝統と先進の融合による進化を目指す、当会の作務衣に対する志の一端とまさに同じもの。
創立15周年にのぞむ当会の気概と、板尾の地から温故知新の叡智を秘めた「秋葉ちぢみ」を発信せんと意気込む島さんの技とが融合した、創立15周年特別企画の「秋葉ちぢみ」作務衣。
夏を席巻しそうな勢いを秘めて、今堂々のお披露目と相成りました。

秋葉ちぢみの里を訪れて(1)

先人の叡智が生んだ夏のための技
ややもすれば、その暑さにうなだれがちになる高温多湿な日本の夏。
しかしながらそれは、祭り、夜店、花火など、一年中で最も日本人としてさまざまな情緒を堪能できる季節でもあります。だからこそ先人たちは、夏の風物詩を心地よく楽しまんと、装いにも多彩な工夫を凝らしてきました。
その優れた発想のひとつが、肌との接触面を少なくすることで涼感を得ることのできる「ちぢみ」と呼ばれる技法でした。
「ちぢみ」を採用した当会の代表的な夏の作品の一つに近江縮作務衣がありますが、この時期になると引く手あまたの人気ぶりになることを見ても、先人の叡智工夫は時を越えた素晴らしいものだと再認識せざるをえません。
しかしながら、さすがに審美眼を磨くことに長けた会員の方々、「『作務衣の専門館』と呼ばれるならば、現状に満足せず、さらなる優れた『ちぢみ』の新作を追及せよ」とのお言葉しきり。
もちろん当会としても、以前から新しい「ちぢみ」の研究に勤しんではいたのですが、折りしも今年は当会創立15周年。会員の方々からのお言葉に加え、「ちぢみ」の新作を生むための焦りは増すばかり…。

近江縮作務衣 グレー

綿と麻、近江縮みの絶妙の調和。独特の織り柄が味わい深い。
独特の織り柄による生地の表情が、陽光に映える清々しい彩りとあいまって、着る方、そして人々の視線に、本麻に勝るとも劣らない涼感を与えてくれます。
四季に応じて衣を替え、その季節に最も適した作務衣をまとっていただき、自然の旬や心の開放感を肌で感じてみて下さい。

近江縮作務衣 絣柄

麻のシャリ感が快い涼を奏でる。
縁台に蚊遣り、ゆかたがけ…懐かしさと共に、最も日本的な情緒が残る夏です。
心身が伸びやかに解放される行動的な季節ですが、いかんせん日本は高温多湿、もっと快適にお洒落に過ごせる作務衣はないものか。
近江縮み作務衣は、そんな考えをもとに、趣豊かな夏をさらに心地よく楽しんでいただくために生まれた一着。
そのため、麻と綿を組み合わせた涼しげな布地を採用し、涼感あふれる「近江縮み」で仕立てました。
日本の夏に近江縮みの作務衣…手放せなくなること請け合いです。

本藍染 近江縮作務衣

麻と綿の織りなす涼感、本藍染の風合い。
ちぢみは、近江四百年の伝統が息吹く手もみの「しぼ」の技法。四百年の伝統を持つ手もみ技法により、“しぼ取り”加工がされていますので、肌との接触面が少なく、べとつき感がありません。
素材は麻45%、綿55%といういかにも夏向けの素材構成です。
通風性にも富んでいて、また、手もみによる加工が麻の硬さを和らげ、シャリッとした感じの心地よい肌ざわりが得られます。

近江麻ちぢみのふる里 近江路を行く(3)

近江商人たちは、天秤に郷土の特産品を積んで諸国を行商した。
八幡商人は、麻織物・蚊帳・畳表。五個荘商人は、野洲晒(やすさらし)・高宮布・編笠。日野商人は、日野椀・日野きれ・薬などなど…。
なかでも、八幡商人が行商した麻織物は、鎌倉時代から愛知川町・秦荘町・五個荘町・多賀町などで織り続けられてきたもので、「近江麻ちぢみ」として親しまれてきた。
特に夏場は、麻独特のひんやりとした感触が汗をかいてもベトつかない点が、諸国の人々に大変よろこばれたという。
近江の商人たちは、故郷の産物をもって諸国に行商に行き、帰りには行く先々の産物を仕入れ、帰りの道中で商いをしながら故郷に戻った。
その工程には、全く無駄がなかったと言われている。